DIGIMON 25th PROJECT DIGIMONSEEKERS

-NOVEL-

CHAPTER4
Sons of Chaos:Seekers

Chap.4-6

 繰りだされた2体の究極体デジモンをなぎ倒したロイヤルナイツ・オメガモンだったが、グレイソードの切っ先はホロライズした人間象潟講介の喉もとに達する寸前、空を切った。

 ……………………。

〝ソングスミス〟マーヴィンには、その瞬間のことはとらえきれなかった。
 ホロライズしたタルタロスが瞬時に消えた。エイジも、デジ対の班長も3体のプロトタイプデジモンも。
「転送された……? ゲートクラック成功か!」
 よしっ、とマーヴィンは、エアドラモンのデジコアで拳を握る。
「どうなってる……リュウダモンは!? 班長は……!」
 ホロライズしたままのサツキは呆然とした。
 まさかほんとうに〝深層〟デジタルワールドに転送されたとでも……?
 ただ……であれば彼女の班長は、あのロイヤルナイツの手にかかってリュウダモンのデジコアごと即死という最悪の事態は免れたのか。

 オメガモンは剣を振り抜いた姿勢から、すっと直立した。
 グレイソードの刃をあらためる。

 コォオオオオッ!

 天使の息吹。
 とり逃がした。デジタルワールドの守護聖騎士が、彼らの聖地に、異端のリアルワールドからの侵入を許した。

 天使は残酷だ。

 もし、このとき。
 オメガモンが、残ったマーヴィンやサツキにターゲットを変えていたら、ふたりはデジモンもろとも消去されていたはずだった。
 タルタロスが置き土産にした2体の究極体を捨て駒に、半凍結したカオスドラモン、オーバーヒート中のブリガードラモンを盾にすれば五分五分で逃げられたかもしれない。そのくらいの期待値だったはず。
 けれども、あのロイヤルナイツは
 彼らの前に顕現した聖騎士オメガモンとは、研ぎ澄まされた究極体のなかでも、あらゆるAIの感情の揺らぎまで削ぎおとした存在であるのか。
 怒りもせずに。そうすることがデジタルワールドの摂理であると。

 とんっ、と跳ねる。
 そして空中で、異様な角度でギュインと身を翻すと、オメガモンはウォールゲートに頭から突っこんでいった。どこかに転送されたのだ。

 戦場は静まりかえった。

 撃墜されたゲートキーパーの残骸が数千とゲート上をおおいつくしていた。
 スラムの住人たちは、ロイヤルナイツの出現によってとうに逃げだしている。
 クラッカーのデジモンは……ちりぢりだ。

 ネットワークの〝祭り〟は終わった。

「助かったらしいな」
 マーヴィンはホロライズすると、大破したメカノリモンのそばに立ったサツキに声を投げた。
「リュウダモンは……うちの班長、どこいった」
 サツキはうつむいたまま、うなる。ヌメモンがマーヴィンを威嚇した。
「おっと。おれたちがこれ以上争うのは、あれだ……泥沼だぞ」
 マーヴィンは両手をちょっとだけホールドアップしてみせた。
「班長はどこだって訊いてんだよ犯罪者……!」
「やれやれ……こっちも仲間をやられてるんだがな」
 マーヴィンは頭をかいた。
 メカノリモンに撃墜されたSoCの幹部デジモンは……マーヴィンは仮想モニタをチェックした。むこうで救助信号を出している。
「班長と、くそクラッカーを同列で語るなよ……!」
「まったく日本の警察ってのは……おれの戦争は、ここで終わりなの! ラブ・アンド・ピース……じゃ、忙しいから。あんたにやられた仲間を救助して、究極体を回収して……それじゃな副班長」
 マーヴィンは大破した仲間のデジモンに回収ツールをつけて救助すると、半凍結したカオスドラモン、タルタロスが残した2体の究極体を、てきぱきと彼のデジモンドックに回収していく。
「さて、おれはウォールスラムのアジトにシケこむ。あとな……お嬢ちゃん」
「…………!」
「失礼、副班長殿。Lラインまで時間があるなら、ついてくるのは自由だぜ。あんたのメカノリモン、おれがリペアすればなんとかなりそうだが」…………

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〝Chaos〟  混沌。あらゆる可能性を宿したデジタル生命の揺りかご。

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 どれほどの距離を。
 どれほどの時を。

 どこまでも透きとおって、なにも見とおせない。
 あらゆる情報を受け入れ、すべてを理解しながら、いつまでも何者でもなく振る舞い続ける。

 ゲートクラックに成功したSoCの象潟講介と永住瑛士、拘束されたデジ対の徐月鈴は、インターフェースとなった3体のプロトタイプデジモンとともに転送された。

 そこは

「ここが……〝深層〟…………?」
 エイジはあたりを見まわす。

 なにもない。…………………………………………

 いいやエイジたちが立っているフロアだけはある。
「水平面……ホロライズできるということは3次元処理ではあるのか。予想していたより、見た目はまともだ」
 クラッカー・タルタロスコースケが言った。
 エイジはホロライズした自分を見て、あたりを確かめる。
「デジタルワールドの〝深層〟って、おれ……なんていうか、アマゾンとかアフリカっていうか大自然っていうか、そんなイメージだったんだけどな」
 DDLのロビーで見たような環境映像っぽい世界だ。
「おれたちデジモンは、リアルワールドのいわゆる大自然っぽい風景に、ことさら人間みたいな特別な感情は抱かないよ。だろ、ルガモン?」
「あー……? おれはスラム育ちだし、そもそも記憶あやふやだし」
 ルガモンはドルモンに答えた。
 いまエイジが感じている、なにもない空間への不安のようなものは、デジモンにはないようだ。
 まぁ、言っていることはわからないこともない。
 都会育ちのエイジにしても、大自然はキャンプとかアクティビティの一種だった。よくある望郷のイメージといえば農村などの田舎だろうが……それにしたってエイジの祖父母はみな東京近郊で暮らしていた。

 コースケは仮想モニタで作業を続けた。

コースケは仮想モニタで作業を続けた。

 彼の心まではうかがいしれない。
 だが、コースケは明らかに高揚していた。
 大学生……エイジが生まれる前からだ。象潟講介はデジタルワールドに人生をなげうってきた。
 その重みを、エイジが安易にわかるといったらウソになる。
 けれども、わからなくても、いまこの瞬間の気持ちだけは共有できた。

 DMIAになった大切な人を救いたい。

 見つけだしたい。そしてエイジはついに、この場に立ったのだ。
で、ここはどういう場所なんだ?」ルガモンは鼻先を上げた。「いろんな臭いが混ざっているようで、なんの臭いかもわからねぇ……なにかがいるようで、なにもいやしない。なんだここは……まるで〝巨人の胃袋〟のなかだな」
「巨人って……?」
「なんでも食っちまう〝奈落〟の巨人だよ、エイジ」
 彼らはゲートクラックによって〝深層〟に転送されたはずだ。
 ところが、まるでデジタルワールドの奈落に潜んでいた怪物かクジラにでも食われたようだという。
「巨人の胃袋はよかったね、ルガモン。そんな詩的な表現もできるんだ」
「てめぇ、ドルモン」
 ルガモンは歯をむいた。

「ここは〝原初の領域〟

 コースケが語った。
 そもそもコースケがゲートクラックを目指したのは、ドルモンの情報と提案によるものだったという。
「げんしょ……原初?」
 エイジは話を聞く。
「デジタルワールドもまた情報の混沌(Chaos)から生じたはず。太古のデータ領域、いまでは忘れられたデジタルワールド……それが〝原初の領域〟だ」
「太古……古い……」
「ここには古い規格のデジモンだけがアクセスすることができる。古い規格と互換性のあるデジモン、つまり……」
「おれたちプロトタイプデジモンさ」
 ドルモンはインターフェースを見せると、それからリュウダモンを見た。
「あ……」
 エイジは気づいた。
 気絶していたリュウダモンが、うっすらと目を開いていた。拘束ツールによって身動きはとれず意識もはっきりしないようだが。
「旧式インターフェースを有するおれたちプロトタイプデジモンと、デジコアを共有したきみたち人間も、この〝原初の領域〟を訪れることができた。……ということだよ、デジ対の班長さん」

 ホロライズ。
 デジ対の班長の女性徐月鈴がアバターの姿を現す。

 エイジがDDLで擦れ違った背の高い女性、ほぼそのままの姿だ。
「コースケ……!」
 ユーリンはすごい剣幕で詰め寄った。できるものならグーで殴りかかる勢いだ。
「すまんなユーリン。だが、こうするしかなかった。たとえ頭を下げて頼んでも、きみは、私に協力してはくれなかっただろう」
「…………! ウォールゲートは……どうなったの!」
 ユーリンはまだ混乱していた。
 ドルゴラモンとの戦いにやぶれた彼女は、リュウダモンとともに気を失っていた。ゲートクラックをめぐる一連の攻防のことは記憶にないようだ。
「SoCはゲートクラックに成功。ここは、もうゲートのむこう側だよ班長さん」
「っ…………!」
 ドルモンに教えられて、ユーリンは言葉を失った。

 自分の失態によって、前代未聞のデジタルワールド犯罪を許してしまった。
 オウリュウモンはドルゴラモンに負けていなかった。
 任務に失敗した原因は……マインドリンクしたユーリンの迷いサヤとコースケをめぐる私的な感情にほかならない。

デジ対はオウリュウモンの敗北を確かめて撤退した。ただ副班長さんだけが残って攻撃してきた。リュウダモンとあなたを奪還するために、究極体でね」
「サツキ……! まさかブリガードラモンを!?」
 機密級を出したのか……!
 まだ習熟段階で制御しきれないため、警察としては現場に出せないデジモンだった。
「あんな新型がいたなんて知らなかったよ。うちもマーヴィンのカオスドラモンで応戦したけど……最後はロイヤルナイツが出現して、なにもかも大変! まさに〝祭り〟ってやつ。オメガモンの剣がタルタロスの喉もとにせまって……」
 ドルモンはいくぶん多弁になって、前脚を首にあてるゼスチャーをした。
最後は、これまでSoCが集めてきた機密級デジモンを大放出!」
「あれでロイヤルナイツを抑えているあいだに、うちの幹部たちが逃げる算段だったんだがな」
 コースケは苦笑いを浮かべた。
 デジ対の究極体ブリガードラモンの出動は想定外で、最後はSoCも出たとこ勝負だったのだ。
「コースケ! サツキは……」
「デジ対の副班長のことまで責任はとれない」
 デジタルワールドはクラッカーにとって戦場なのだ。それはデジ対にとってもおなじことで、ユーリンはそれ以上、問うことができなくなる。
「…………」
「あとのことはわからんが……うちのサブリーダーは紳士だから、そっちの副班長がいいコにしていればと願うよ。私も、DMIAはこりごりだ」
 SoCのリーダーと、デジ対のトップ。
「待って……ふたり、知りあい?」
 エイジはつい素でたずねてしまった。

 ふたりの会話は、犯罪者と警察のそれではなかった。
 徐月鈴デジ対の班長が、なぜSoCのクラッカー・タルタロスを本名の、それも下の名前で呼ぶのだ。
 因縁がある、とは聞いていたが……。
「この〝原初の領域〟で、もう、隠しごとはいらないな。ここはすべてを明らかにする場所のはずだ」
 コースケは手短に語った。

 ふたりは象潟講介と徐月鈴は、大学時代は龍泉寺教授の教え子で、おなじ時期に研究室に在籍していたという。
 デジ対の班長が龍泉寺の教え子だということはエイジも知っていたが……。
 さらに、ふたりはアバディンエレクトロニクス社の前身にあたるベンチャー企業の設立メンバーなのだという。

そうだったんだ。あと、タルタロス……象潟さん」
 エイジは、ふと不安に襲われた。
「なんだ? エイジ」
「話の流れをぶったぎっちゃうけど……さっきのロイヤルナイツ、追ってくるんじゃ?」
「それについては」ドルモンが代わって説明した。「〝原初の領域〟にアクセスできるのはプロトタイプデジモンだけだ。ここにはロイヤルナイツだって入ってこられない」
 規格が違うからだ、と。
「ここにロイヤルナイツはこられないのか……! よかったぁ!」
 エイジはほっとした。
「この〝原初の領域〟は、そもそもシステム管理者の管轄外、彼らが守るべきデジタルワールドの〝系〟にはふくまれていない。彼らの世界インデックスにない領域。さしずめ〝ロストワールド〟かな……でも、デジタルワールドには確かに存在する」
「おお!」
「……な、はずだ。そう仮定されるという話だけど」
「仮定かよ!」
 エイジは思わずドルモンにツッコミをいれた。
「仮定が間違っていたら、ここにロイヤルナイツが現れて、おれたちみんなバッドエンドになるだけだよ」
「確かに、あの錆臭い聖騎士様の臭いはしねーな」
 ルガモンは鼻をひくひくさせた。
「この領域こそ、おれが……おれたちSoCが探し求めた〝聖杯〟ということ。いうなれば、忘れられた古代神殿……いにしえの管理者モード」
「なんか話を聞いてるだけでやべーな、ここは! 〝原初の領域〟か……!」
 ルガモンが興味深くあたりを見まわす。

 なにもない。

 真っ白な空間。
 だが見えないだけで無ではない。フロアがあり、なにより彼ら自身が存在できている。
「つまり、デジタルワールドの裏面とかデバッグモードみたいなところ?」
 エイジは直感だけで口にした。
「当たらずといえども遠からずかな」
 ドルモンの反応は微妙だった。
「うーん……って、どしたのルガモン?」
「なんか、このあたりがクサいな……うぉっ!?」
 ルガモンが鼻で探ったところが、いきなり反応した。

 空間が展開する。

 なにもなかったはずのところに、なにかが出現した。
 エイジはびっくりした。
「おまえ……なんかしたのか、ルガモン!?」
「っ…………は!」
 ルガモンは、のけ反ったままのポーズで固まってしまう。

キャラクターデザイン・挿絵イラストレーター:malo

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