DIGIMON 25th PROJECT DIGIMONSEEKERS

-NOVEL-

CHAPTER4
Sons of Chaos:Seekers

Chap.4-5

 ゲートキーパーの攻撃はいまやSoCに集中していた。

 マーヴィンが操作する〝暴君〟カオスドラモンはゲートキーパーの群体を寄せ付けない。〝ハイパームゲンキャノン〟の撃ちもらしは、ほかの幹部たちが確実に迎撃した。
 その数分間SoCの防御陣地は完全な安全地帯となった。

 まるで奇蹟のような時間。

 そして混沌の時間。人類が〝深層〟に爪痕を残そうとするなら、これほどのコストをかけねばならなかった。
 コースケは3体のプロトタイプデジモンによるゲートクラックをすすめる。
 ホロライズしたまま、あえて実体をデジタルワールドにさらす。それはSoCの全員とパートナーデジモンの命を預かる彼にとって最低限の礼儀であり矜持だった。

 ゲートクラック進展率30%……33%。

 ドルモンが機械的にアナウンスする。
 コースケの仮想モニタから、3体のプロトタイプデジモンめがけて複雑なコードが送信された。
 陰陽師が式神を操る札のような。デジタルでありながらどこか呪術的なビジュアルが展開する。数万行のコードが帯状になり旧式インターフェースに吸いこまれる。3体の足もとから光の文様が伸びて、ウォールゲートに複雑な幾何学模様を刻みつけていく。
 かつてコースケが完全体ドルグレモン1体でゲートクラックに挑んだときは、30%あまりで停止した工程がその、先へと。

 未踏の〝深層〟へ。

 すべてのゲートキーパー群体……数千、数万のAIの意思が、いまや彼を殺意なくねらっていた。
 時折、撃墜されたゲートキーパーの破片が振りかかってきたが、コースケは微動だにせず作業に集中する。
「すげぇ……!」
 エイジは感動した。
 仮想モニタをはじき、どんな工程を踏んでクラッキングをすすめているのかエイジのスキルでは理解しきれないが、あの人はやはり伝説のクラッカーだ。

 進展率66%

 ズンッ!

 おおよそ3分の2コードで組まれた幾何学模様が積層化して柱となり、ずぶずぶと沈みながらゲートを侵食していく。
 と、
 ぴくりと、ルガモンが鼻先を上げた。
「ルガモン? どうした」
「くる……やつだ」
 ルガモンはエイジに警告した。

 臭いがしたのだ。はるかな〝深層〟から

「やつって……まさか! タルタロス!」
 エイジは声を上げた。
 AIとしてのルガモンの機能の大半をコースケに預けているため、ホロライズしたエイジの仮想モニタは大半が待機状態のままだ。
「ルガモン、落ち着いて」ドルモンが小声で言った。「いま、おれたちにできることはない」
「ちっ」
「でも、きみの鼻は信じるよ……マーヴィン」
 自身もインターフェースとなっているためか、ドルモンの声はいつにもまして機械的だ。
「聞こえている……ここまでだ! 全員撤退!」
 マーヴィンは指示を出した。
「リーダー、すいませんオチます!」
「こっちも限界です!」
 SoCの幹部たちはマインドリンク限界から離脱していく。
 その結果、すべての負担はカオスドラモンに集中した。
「マーヴィン! リーダー! これがおわったらGriMMで祝杯、あげましょう!」
 最後まで残った幹部が別れのチャットを送ってきた。
「おう!」
「じゃ、お先に……ぐぁああっ!?」
 チャットが途絶した。
「!?」
 その悲鳴はエイジにも届いた。
 攻撃された……?
 幹部のデジモンがゲートに墜落する。
 だれが撃った視界のすみに見えた光線の出どころを、エイジは探った。

 1体のデジモンがこちらに近づいてきた。

 ゆっくりと……そいつ自身もひどいダメージを受けていて、煙を上げながら腕と足をひきずっている。
「メカノリモン……?」
 エイジは目を疑った。
 デジ対の乗用デジモンだ。胴部リニアレンズのビーム砲で、SoCの幹部デジモンを撃墜したのだ。
「デジ対? 撤退したんじゃなかったのか!」
 小爆発を起こしながら、メカノリモンが体をかしげてくずれおちる。
 SoCとの戦いによるものか、ゲートキーパーの攻撃によるものかはわからないが深刻な状態だ。
 メカノリモンのハッチが開く。
 煙といっしょに、ズルリと搭乗していたデジモンが操縦席からはい出した。

 ヌメモンだ。

 ヌメモン自身にもダメージがあり、メカノリモンから脱出するなり地面にはいつくばってしまう。
 そのかたわらに彼女はホロライズした。

「ごめん……」

 サツキだった。
 壊れて動かなくなったメカノリモンに手をかけると、うなだれる。
「てめぇ……デジ対の副班長だな! なにしに来た!」
 仲間をやられて、エアドラモンのマーヴィンは怒り心頭だ。
 だが、サツキは部下のコマンドラモン1体すらつれていない。
「なにしに来た、だと……?」
 吐き捨てると、サツキは強大なカオスドラモンをにらみかえした。
 その鬼の形相にマーヴィンは逆に気圧されてしまう。

うちの班長、取りかえしにきたに決まってんだろ。くそクラッカーどもッッッ!」

 サツキが吠えた。
「それは……ごくろうなこったが。ヌメモン1体でなにができる!」
 マーヴィンはサツキを牽制する。
 ゲートキーパーの迎撃で手一杯とはいえ、カオスドラモンの右腕解体用圧砕器をちょっと伸ばせばヌメモンなどひねりつぶせる。
「おぇ……カオスドラモンとか聞いてねーし! エグいの引っ張ってきたな〝ソングスミス〟!」
「サツキちゃん!」
 そのとき、ホロライズしたエイジが飛びだした。
「ナガスミ・エイジ……?」
 サツキの目の色が変わった。

 思えば、エイジと出会ってから、サツキはいろいろケチがつきまくりだった。
 彼女にとってエイジは、まさに疫病神。なんとか大師で厄払いをしたいくらいだ。

「あぶないよ! ホロライズしてると……弾とかあたったら死んじゃうよ!」
「おめーもだろコゾー! んなこたわかってんだよ……覚悟だ覚悟」
 たとえホロライズを切っても、パートナーのデジコアが破壊されればおなじことだ。
「それにヤバいんだって! もうすぐ〝やつ〟が
「ぐちゃぐちゃ、だまれよデコ助ども……!」
 エイジの警告を無視して、サツキはなにかを取りだした。
「デジモンドック……?」
 官給品のようだ。ラベルプリンターのテープに、なにかが書かれている。

 『機密 警視庁11係D-003799』

「機密……!? 警視庁のか!」
 目がいいエアドラモンのマーヴィンがラベルの字を読んだ。
「班長……すいません。さっき上には辞表をメールしました」
 サツキは気を失ったままのリュウダモンと、そのデジコアにいるユーリンに断った。
「…………? サツキちゃん?」
「この〝国家機密級デジモン〟を持ち出した以上、あたしはSoCとおなじ犯罪者です。でも……どうなろうと! 警視庁は……デジ対は、あなたを失うわけにはいかないから!」
 サツキは、デジモンリンカーと同期済みの機密デジモンドックを起動した。

 ィイイイイイイインッ!

 風鳴り。
 新たなデジモンの出現。エイジはあたりを警戒する。
 しかし、なにも現れない。
「なんだ……? なにしたのサツキちゃん……」
「…………! 上か!」
 マーヴィンのエアドラモンが反応したのと同時に、

 〝ジェノサイドレイン〟!

 ガトリング砲弾が直上から襲いかかった。
 砲弾のシャワー。破壊の雨だ。

 ガガガガガガガガガッ…………!

「ウソだろ……!? カオスドラモンが……!」
 マーヴィンは信じられなかった。

 カオスドラモンが、沈む。
 直上からの砲撃に耐えているが、前かがみの姿勢のまま身動きがとれない。
「班長! いま、助けます!」
 サツキは叫ぶ。
「ちっ……ねらいはリュウダモンか!」
 マーヴィンはサツキのねらいを察した。カオスドラモンを押さえ付けて、そのスキをついてリュウダモンを奪回するつもりだ。

 ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ!

 轟音と衝撃に、エイジは頭を抱えてうずくまった。
 砲声、そして振動、キナ臭い土煙。
 おそるおそる顔を上げる。
「…………! カオスドラモン!」
 エイジの目の前にカオスドラモンの背中があった。
 身をていしてエイジをコースケを守ったのだ。
 カオスドラモンと激突して組み合っているのは、見たことのないデジモンだった。

 ブリガードラモン 究極体 サイボーグ型 ウィルス種

novel_deco

「究極体……!? デジ対のデジモンか!」

 その姿は、ひと言でいえば人型ロボット兵器だ。
 飛行タイプ。上空からの砲撃に特化しつつ、背部の飛行ユニットによって地上戦においても高速移動を可能にしたマルチロールだ。
 主力武装は右腕の4連装長砲身ガトリング砲。
 頭部はコーティングされた戦闘機風のキャノピーでおおわれていたが、その内部は操縦席ではなく集積回路が組みこまれていた。メカノリモンのような搭乗式ではなく、ツールでの運用を前提にしている。本来は複座型で、操縦と管制、2名での操作が必要だったが、サツキはひとりでこなしていた。

「おいおい、なんだよこいつは……ブリガードラモン!?」
 マーヴィンも知らなかった警視庁の機密級デジモンだ。
「くそっ、かてーな〝レッドデジゾイド〟……反則か!」
 サツキがののしる。
 秒間4800発の〝ジェノサイドレイン〟を浴びて耐えられるデジモンなど、防御力が外れ値だ。
 驚くべきことに、サツキもマーヴィンもツール操作で究極体を使いこなしていた。
 マインドリンクした究極体よりはスペックで明確に劣るとはいえ、運用時間の制限を考えれば、こうしたツール運用のほうがトータルのパフォーマンスがよい場合も多いはずだ。
「反則はどっちだ、じゃじゃ馬め……だが、捕まえたぜ」
 マーヴィンは笑む。
 カオスドラモンの圧壊機がブリガードラモンの右腕ガトリング砲をつかんでいた。
「捕まったんだよ。わざとだ」
「あ……?」
 ブリガードラモンは、つかまれたのとは反対の手をカオスドラモンにむけた。

 3連装ミサイルランチャー……!

「武装が長物だから近接戦が苦手とか思ったか? ブリガードラモンは、警視庁のよくばり仕様だっつーの!」
「マーヴィン! サツキちゃん!」エイジは叫んだ。「〝やつ〟だ!」

novel_deco

 奇妙なことに
 ネットワークの海をおおっていたゲートキーパーの群体が、さぁっと潮が引くように姿を消していた。

 戦場のエアポケット。

〝やつ〟が。
 その名を口にすることすらウォールスラムのデジモンは忌み嫌う。

〝深層〟から。
 顕現せしは守護スルモノ。

 〝All Delete〟

〝すべてを消去するモノ〟だ。

 ロイヤルナイツ オメガモン!!

 浮島でエイジとヘルガルモンに襲いかかり、レオンとカヅチモンもろとも〝乱渦〟の底におちていった最上位ゲートキーパー。
 なにも語らず。
 ただ実行する。ただ排除する。デジタルワールドの〝深層〟に挑む者を。
 いっさいのコミュニケーションは不可能。
 研ぎ澄まされた存在である究極体のなかでも、もっとも〝神〟システム管理者に近い存在。
 このデジタルワールドの武装天使を前にしたとき、クラッカー、たとえデジ対であっても、やるべきことはひとつだけだ。

 逃げろ。

 そして祈れ。DMIAになりたくなければ。
 だが、
 いま、このウォールゲートに残っている者は。
 ゲートクラックに挑み、あるいは阻止しようとし、大切なだれかを助けるために限界までデジタルワールドの〝深層〟にかかわろうとした者だけだ。
 だれひとり逃げはしなかった。
 逃げるという選択肢を捨てたことで、彼らの意識はより明瞭になり、やるべきことは自明となった。
 あとは〝覚悟〟だけ。

novel_deco

 人とデジモンの意識は光の速さで

 その右腕は絶対零度の砲。
 警告などあるはずもなく。ウォールゲートに顕現したオメガモンは〝ガルルキャノン〟を撃つ。
 ねらいはゲートクラックを実行している人間、リアルワールドの不正データだ。
「タルタロス!」
 マーヴィンはカオスドラモンを捨て駒に、レッドデジゾイドの盾そのものとした。
〝ガルルキャノン〟を浴びたメタルボディが凍てついていく。硬度を誇るレッドデジゾイドも冷気そのものは防げない。

 〝ハイパームゲンキャノン〟!

 カオスドラモン最後の咆哮。
 オメガモンは即応して跳ぶ。低空姿勢制御から、凍結しかけたカオスドラモンの頭上をかすめて、そのままコースケとプロトタイプデジモンをねらった。

 〝エクサデストロイヤー〟!

 横あいからオメガモンが撃たれた。
 サツキだった。ブリガードラモンの左腕の3連装ランチャーから有機体系ミサイルが連続発射される。
 誘導ミサイル全弾がオメガモンの側面に命中。
 さしものロイヤルナイツも挙動を乱して、すべりながらゲート上に着地した。
 それでも、倒れることはない。ミサイルは聖騎士の鎧にはばまれた。

 〝ジェノサイドレイン〟!

 長砲身ガトリングでオメガモンを追撃する。
 サツキには、わからない。
 クラッカーに協力するわけじゃない。でも、あのロイヤルナイツは明らかにゲートクラックを実行するクラッカー・タルタロスをねらっていた。そこには彼女の班長マインドリンクしているリュウダモンがいるのだ。
 サツキは班長を、ただユーリンを守るために戦う。

 ガガガガガガッッ! カラカラ…………

 砲身が空転した。
 ブリガードラモンの右腕がガトリング砲の連射によって灼けついた。オーバーヒートだ。こうなると冷却まで、つぎの砲撃ができない。

 オメガモンは……
 ブリガードラモンの全火力を浴びながら、平然と、その左腕をかかげた。

 〝グレイソード〟

「進展率95%……96%……97%……」

 ドルモンの声は伝える。
 オメガモンはグレイソードを構えて突進した。
 カオスドラモンは凍結、ブリガードラモンは撃ちつくした。

 間に合わない。

 寸刻の間もなく、ロイヤルナイツは象潟講介の首をはねるだろう。
「象潟さん……!」
 エイジはほんとうに祈ることしかできず。
 光の速度で伝わる人とデジモンの意識のなかで、その場にいた全員が息をのんだ。

 そのときだった。満を持してコースケは動いた。
 彼が両手にしたのはデジモンドックだ。デジモンリンカーではなく、あらかじめ同期しておいたサブ機を2台。

 ォオオオオオオオオオオン!

「集めている、と言ったはずだ。機密級デジモンを」
 コースケは、この戦いの勝利を確信して。

 新たな2体の究極体デジモンが出現する。

「集めてるっていうのは2体や3体はいるってことさ。ムゲンドラモンやカオスドラモン級がね……進展率99%」
 ドルモンの言葉がおわるよりもはやく、オメガモンの斬撃を、サブ機からあらわれた2体の究極体デジモンが身を盾にして防いだ。

novel_deco

〝サンズオブケイオス〟の奇蹟の時間は、新たな人類の可能性を開く。

 3体の成長期プロトタイプデジモンからイメージが浮かびあがった。
 ドルモンからは、ドルグレモン。
 リュウダモンからは、ヒシャリュウモン。
 ルガモンからはソルガルモンが、それぞれの完全体のイメージがオーバーラップすると、膨大なコードを同時に撃ちはなった。

 ウォールゲートは鳴動する。
 プロトタイプデジモンから生成されていく多階層の幾何学紋様3相克の鍵が〝門〟に沈み、はめこまれる。
 隠し扉バックドアに至るルートを開いたのだ。

 2体の究極体をなぎ倒したオメガモンの刃が、コースケの喉もとにとどく寸前

 進展率100% ゲートクラック!

 コースケの姿は、その場から消えた。
 エイジも、3体のプロトタイプデジモンもまた〝物語〟の登場人物たちは転送されたのだ。

キャラクターデザイン・挿絵イラストレーター:malo

前の話
Chap.4-5
次の話