DIGIMON 25th PROJECT DIGIMONSEEKERS

-NOVEL-

CHAPTER3
Unit 11:Digital Missing In Action

Chap.3-1

 かつてデジタルワールドに先駆したクラッカーたちは、みな冒険者だった。

 それは命がけの探究。
 たとえば15世紀、新大陸と新航路の発見にわきたち、地球という未知のリアルワールドに挑んだ航海者のように。
 既知の存在となっていたセキュリティウォール、予見された〝深層〟をふくめたデジタルワールド全体を解き明かすことが、クラッカーが目指すものロマンだった。

 その当時、

 いまでこそ武闘派クラックチームとして悪名をはせるSoC(サンズオブケイオス)もまた、始まりはリーダー・タルタロスを中心とした、より少数精鋭からなるデジタルワールド探索のパーティだったという。

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 デジタルワールドを守る〝壁〟たるセキュリティウォールは難攻不落。
 この〝壁〟を抜けて〝深層〟を目指すのであれば、データトラフィックを管理するゲートを通過しなくてはならない。

 ウォールスラム中心部〝門〟

 クラッカー・タルタロスと数名からなるSoCのパーティは、彼らのパートナーデジモンとマインドリンクを果たし、まさにウォールゲートにクラッキングをしかけていた。
 ここまではひそかに侵入できたが、ついに発見された。
 だれに……?
 デジタルワールドのシステム管理者、その剣であり盾である〝門番〟ゲートキーパー・デジモンにだ。

 〝ジェノサイドアタック〟!

 無数の子弾にわかれた有機体系ミサイルが、敵を数十単位で撃墜した。
 サイボーグ型の飛竜完全体メガドラモンによる対空迎撃だ。

 上空から帯状にまとまって押し寄せるゲートキーパーの大群にミサイルが直撃、ぽっかりと穴があいた。だが、その穴はすぐに数の暴力で埋められてしまう。
 敵の数が多すぎて、ハードの描画能力を超えてしまったゲーム画面のようにチカチカ処理オチして見えた。実際にそんなことはないはずだが、そう錯覚するほどだ。
「長くはもたんぞ……!」
 メガドラモンで防戦しつつ、〝ソングスミス〟マーヴィンは彼らのリーダーにチャットで忠告した。理由はふたつ。

 ひとつはマインドリンクの持続時間。
 もうひとつは……敵の数が圧倒的だ。

 クラッカーが〝門番〟と総称するゲートキーパー・デジモンが、侵入者を排除しようと攻撃してくる。
 さながら群生相となったワタリバッタの大群。個々のスペックはたいしたことはないが、数百数千という数で攻撃的に襲いかかってくる。
 対するSoCの戦力はマインドリンクした完全体が数体。マーヴィンのメガドラモンをはじめ、現在でいうS級ランクのクラッカーをそろえた精鋭パーティだったが、なにしろ敵が多すぎた。
 きりがない。
「始めるぞドルモン、作戦フェイズ2から3へ」
 リーダー・タルタロスは、パートナーのデジコアからツールで指示する。
「うん」
 マインドリンクした成長期デジモンドルモンが進化する。
 成熟期、そして完全体へ。

 ドルグレモン 完全体 獣竜型 データ種

 鈍色の金属翼が風を巻き起こす。
 ドルモンのときは小動物のようだった姿は半獣半竜に。
 体型は竜脚類四足歩行の大型草食恐竜に似て、首と尾がながい。それでいて全身は毛皮におおわれて獣の特徴をそなえていた。

 〝メタルメテオ〟!

 ドルグレモンの頭上を影がおおった。
 鉄球だ。
 巨大な敵ゲートキーパーの群体はもちろんSoCのメンバーたちさえ、いきなり出現した巨大鉄球に注意を奪われた。
「やべぇ……! これがタルタロスの本気かよ!」
 マーヴィンは退避を指示した。SoCのデジモンたちは対空迎撃を続けながらしりぞいていく。

 ドルグレモンの、ひたいのインターフェースがかがやいた。

 巨大鉄球の表面に光の文字列が走る。
 びっしりとコードが刻まれていく。
「クラッキング開始。ウォールゲート接触まで10、9、8……」
 ドルグレモンのカウントダウンとともに〝メタルメテオ〟の鉄球が落下を始めた。
 そのとき思いがけないことが起きた。
 ゲートキーパーの群体は……逃げるどころか、自ら〝メタルメテオ〟の鉄球の真下に入りこんだ。
 ウォールゲートを守ろうとして、鉄球を群体で持ちあげようとする。
「妨害されている……タルタロス」
「かまわん、このまま続行」
〝メタルメテオ〟はゲートキーパーの群体をすりつぶしながら、ついにウォールゲートに接した。

 ビギギギギギギギギッ…………!

〝門〟に、ずぶずぶと鉄球がめりこんでいく。
 噴火口ほどもあるウォールゲートに対しては、ドルグレモンの巨大鉄球であっても小石を投げつけたようなものだ。
 だが、その小石が想定外の波紋をもたらした。
「デコード開始……よし、いける」
 タルタロスは静かに手ごたえを感じた。

 進展率20……25パーセント……。

 ドルグレモンのカウントとともに、ウォールゲートに劇的な変化が生じた。
〝門〟の表面に、光のラインが放射状にひろがっていく。
 ウォールゲートをクラック、侵食していくのだ。

 ドンッ! ガガガガガガガガガガッ!

 残りのゲートキーパーはドルグレモンに突撃、攻撃を集中した。
「させるかよっ! 最大火力だ! てめぇら、あと1分かせぐぞ!」
 マーヴィンのメガドラモンとSoCのデジモンたちが厚い弾幕を張った。

 ズズズズッ……………………

 ドルグレモンの鉄球が、ふいに停止した。
 鉄球表面のコードが見る間に光を失っていく。進展率カウントが30パーセントを超えたあたりでデコード作業がとどこおった。
「ドルグレモン? どうした」
「コマンド中断……やはりプロトタイプデジモンが1体では、ここまでだ」
 ドルグレモンは冷静に、納得している感じで答えた。
「…………」タルタロスは息をついた。「仮説どおりか、やはり」
「この門の鍵は〝三つ巴〟……ウォールゲートのクラックを達成するためには、あと2体……ウィルス種とワクチン種のプロトタイプデジモンが必要だ。完全体のスペック……3体同時にだ」
 データ種であるドルグレモン自身のほかに、ウィルス種とワクチン種の完全体プロトタイプデジモンが必要だという。
「ワクチン種のプロトタイプはユーリンのリュウダモン……もう1体は……」
 タルタロスは、あらためてドルグレモンの視座からウォールゲートを見わたした。

 ウォールスラムの中心部に、火山の火口にフタをするようにして存在するゲートは、かたく門を閉ざしている。

このウォールゲートは」ドルグレモンは語った。「当然だけど、ウォールスラムができるはるか以前から、ここにある」
 人類によるネットワークの発明と発展。
 その結果、リアルワールドとデジタルワールドは、たがいを発見してしまった。
 ふたつの世界が接触した結果、デジタルワールドにはセキュリティウォールが構築された。
 さらに、トラフィックを管理するウォールゲート周辺のデータの吹きだまりに、さまざまな理由からデジタルワールドに戻れなくなったデジモンたちが集まって、いつしかウォールスラムが形成されていったという。
「スラムのデジモンたちにとって、ウォールゲートは紀元前の遺跡みたいなものか」
「そうだね。古いタイプの〝三つ巴〟の生体鍵と、3つの魔法のおまじない……」
 ドルグレモンはたとえめいた話をした。
「この〝門〟は、われわれが求めるモノにつながっている。そうだなドルグレモン」
「うん」鈍色の翼の獣竜は応じた。「この〝門〟はね……人間たちがいう〝深層〟はもちろん、どこにでもつながっているのさ」

 〝原初のデータ〟……か。

 タルタロスの言葉は核心に触れた。
「〝聖杯〟リアルワールドでは、そういうんだろう?」
 ドルグレモンはたずねた。
「すべての奇蹟をなす可能性か……だが、それは望んでも、けっして手に入らぬもののたとえでもある」
「じゃ、やめておこう」
「そうだな」
「〝原初のデータ〟は、この〝門〟のむこうにある。世界は、きっと変わるよ。どう変わるのかはわからないけれど……いまよりは、いくらかはマシなはずだ」

 おれは、いまを変えてみせる。

 ドルグレモンは決意を口にした。このウォールゲートをクラッキングして解放すると。
「まるで革命家だな、おまえは」
「たとえば、だれ? 人間の歴史でいうと」
「さぁて……革命家は死んだあとで評価されるものだ」
 タルタロスはうそぶいた。
「おれは死ぬ気はないけど」
「私もだ。だが、これは命を……人生を天秤にかける価値がある」
 デジコアのなかで、タルタロスは彼のパートナーと暗黙の会話をかわした。
「しょせん、おれたちデジモンは〝混沌(ケイオス)〟の子供たちさ。進化という運命を課せられた」
「たぶん人間もそうだよ。1000年、2000年をかけて、それをごまかすことばかりうまくなっただけだ」
「…………! くるよ」
 クラッキングに全能力を集中していたドルグレモンが〝それ〟に気づいた。

〝メタルメテオ〟が完全停止した。
 巨大な鉄球に……ヒビが入っていく。

 ギシッ! ビギビギギギギッ……!

 鉄球表面のコードがくずれていく。
 何者かが、ゲートのむこうからメタルメテオの鉄球を破壊しているのだ。

 〝深層〟から。

「〝やつ〟だ……!」
 その名を口にすることさえ、ウォールスラムのデジモンたちのあいだでは忌み嫌われるという。

 最上位ゲートキーパー、門天、世界樹の13使徒。…………

「マーヴィン! 各自撤退!」
 タルタロスはチャットで指示を飛ばした。
「聞いたなおまえら、ズラかるぞ! 〝DMIA〟になりたくなかったらな!」
 SoCのデジモンたちが離脱する。
 タルタロスとドルグレモンもまたウォールゲートをあとにした。
 迷いのない撤退。
 わかっていたからだ。
 仮にSoCの総戦力であたっても、けっしてあらがうことができない〝やつ〟がくることが。

(ロイヤルナイツ……か)

 ウォールゲートのはるか上空まで退避したタルタロスは、振りかえった。
 彼のパートナーデジモンの視座に映ったのは〝メタルメテオ〟の鉄球を真っぷたつに焼き切って消滅させた〝光〟の一閃のみだった。

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 クラッカー・タルタロスとドルモンがふたたびウォールゲートに挑むのは、彼らが思っていたよりずっと先のことになる。

キャラクターデザイン・挿絵イラストレーター:malo

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