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ハッカーとクラッカー。
両者に、違いはない。
ざっくりいって、ハッキングスキルを有するハッカーのなかで、犯罪――法律に抵触する行為をいとわない者がクラッカーだ。
悪のハッカー=クラッカー。
それはデジタルワールド以前のネットワークの昔から、あまり変わらない。クラッカーによる犯罪を防ぐために活動する者を、とくに正義のハッカーともいった。
「クラッカーって、やっぱり人気ないのかな……?」
エイジはついつい心の声がダダ漏れになってしまった。
「クラックチームでしたっけ? 高校でも大学でも、その手のグループやらサークルはありましたけど。なんか……さえないかヤバそうか、どっちか極端で。結局、そういうの犯罪予備軍でしょ」
後輩ちゃんはズブズブと言葉のナイフでエイジを刺した。
「でも……もし、もしクラッカーで大金を稼いでたりしたら?」
「羽振りがよくって、女の子が集まってたサークルはありましたけど……将来性、ないですよね」
エイジは後輩ちゃんに成敗されたのだった。
初音たちは、久しぶりの再会の場をじゃましてはいけないということで、仕事に戻っていった。
DDLのカフェで、2体のホロライズしたデジモンが初音たちを見送る。
「――いいコたちだったね、ルガモン!」
「パルスモン、おまえはどっちのコがタイプだ? おれは断然、後輩ちゃんだな」
「ルガモンはコドモだなぁ……! おいらは断然、初音ちゃん派。背中を守らせたいタイプだね」
「え……そうなのか?」
「経験上」
「なんで意気投合してんだ、おまえら……」
エイジは撃沈、意気消沈だ。
だいたいデジモンには♂♀がないはずなのに。いったい、なにを根拠に話しているのだ、こいつら。
「おまえは、なんでヘコんでんだエイジ?」
「クラッカーがモテないとわかってヘコんでるんじゃないかな」
「パルスモン、あまり、はっきり言うとかわいそうだよ」
レオンにまでダメだしをされて、エイジの心はボッコボコだ。
わかっていた。
なんとなくわかってはいたが、クラッカーは……別にモテない。世間の印象は非常にネガティブだ。
そんなエイジと、ルガモンとパルスモンのようすを見て、レオンはふっと笑った。
「デジモンは、単なるAIプログラムじゃない」
語りはじめる。
「レオン……? なに……」
「AI生命体というべきものだ。パートナーであるデジモンとのあいだに信頼関係ができることもあれば、デジモン同士が友達になることだってできる」
レオンは、ホロライズした2体のデジモンをやさしい目で見つめる。
「デジモン同士が友達……」
「友達になれると思う? エイジは」
懐かしい話をするときの幼なじみの顔ではなかった。女子と話すときの大学生の顔でもない。
これが〝ジャッジメント〟レオンの顔なのか……。
エイジは……クラッカーとして答える。
「おれ……最近まで、デジモンはツールだと思ってた。クラッカーになってから、ずっとだ」
エイジは言った。
「うん。そのレベルでしかデジタルワールドに接していなかったんだね」
「だな、そこは反論できねぇ。でも……このデジモンリンカーを手にしてからだ。ルガモンと出会ってから、考え方が変わった」
「先生……龍泉寺教授と出会ったから?」
「まさに、だ。マインドリンクに成功して、ルガモンと話とかするようになって……ルガモンにも、いろいろ過去があって。デジモンにも事情があって。そこのパルスモンや、ほかのデジモン、レオっちや、ほかのだれかとも……」
もしルガモンが、エイジ以外のだれとでも関係性を築けるなら……。
それはデジモンがAIであり生命体であり、個性があるということだ。
「エイジ……きみにとってルガモンは?」
「パートナー……相棒だ。人生の」
エイジは、それだけは迷いなく答えられた。
「よかった」レオンは口もとをゆるめた。「エイジ……きみは完全にクラッカーに堕ちたわけじゃない」
「オちた……?」
「はっきり言うよ、エイジ……クラッカーをやめるんだ。デジモンを悪用する犯罪者であるクラッカーから足を洗ってほしい」
それがこの再会の、本題だった。
会うと決まったときから、それはわかっていた。
ハッカーはクラッカーを許さない。
ハッカーの〝正義〟が、クラッカーの〝自由〟を認めないから。
「クラッカーをやめろ……か。答えはノーだ」
「…………!」
するとレオンは、あからさまに不機嫌になった。
「はっきり言うと、レオン……おれは、おまえがうらやましい。留学して、電脳大で大学生やってるおまえがな。DDLでバイトして、それが許されるおまえが」
エイジもあいまいな返事はできない。
レオンが本気でエイジを諭そうというなら。正義感からクラッカーをやめろというなら。
ひとの人生に正義感だけでかかわろうというなら。
「どういうこと?」
「まぁ、聞けよ。おれがクラッカーを始めたのは生活のためだ。もしクラッカーをやめたら、時給いくらでバイトしなくちゃいけなくなる。おれは、まだ19歳だ。人生の本番が始まってすぐ、そんな仕事で満足したくはねぇ」
「大学には進学しなかったの? ぼくの知ってるエイジは、ぼくとおなじくらいテストの点はよかったと思うけど」
「電脳大か……模試でB判定を出したこともあったんだぜ? おれも大学生になるもんだと思ってた」
「…………。なにか、あったの?」
レオンの表情に、初めて不確実なものがまざった。
エイジは、やっと話の主導権をとったのだろう。こんな話、したくもなかったが。
「WWW-626便」
エイジの言葉に、レオンは声を失う。
「…………ッ!」
「と、言えばわかるか? こんな話、おれもあまりしたくない」
「WWW-626便」パルスモンが会話に割って入った。「****年**月**日、東京発の626便が許可なく航路を変更、通信途絶のまま洋上で失踪した。乗客乗員***名、全員が死亡したものとされる。フライトレコーダーは未回収」
パルスモンはレオンを気づかうようすで、ネット辞書に載っている事項を並べる。
「事故の原因はなんだった? パルスモン」
エイジは、レオンのデジモンに語りかけた。
「未だに公式発表はないけど……デジモン犯罪と類推される」
パルスモンが答えた。
事情通のハッカー、クラッカーのあいだでは、626便の事故はデジモン犯罪だったという説が有力になっている。
「エイジ……おまえの親、飛行機の事故で死んだのか?」
「ああ、そうだ」
エイジはルガモンにうなずいた。
3畳ワンルームの仏壇。ルガモンには両親の死因までは教えていなかった。
626便の名前を出してから、レオンは心なしか震えていた。
レオンは、エイジの両親とは何度も顔を合わせていたし、いっしょに川遊びに行ったこともあった。身近な存在ではあったはずだ。
「ご両親が、あの事故で……なんで……」
「旅行……銀婚式っつーの? 息子をおいて夫婦だけのアメリカ旅行」
レオンのようすが、少しおかしいと気づく。
なにかの発作みたいに、声が出そうになるのを抑えていた。
そんなにエイジの両親の死がショックだったのか……。ただ、そのことを考える心の余裕は、そのときエイジにもなかった。
こんなふうに両親の死のことを、ほじくりかえして話すのは、初めてだった……。
「ぜんぜん知らなかったんだけどさ……!」声に涙がまざるのを抑える。「家のローンとか保証人とかいろいろあったみたいで。親の生命保険……家を処分しても、気がついたらぜんぶなくなってた。大学進学……? 選択肢にもなかったね」
もう住む世界が違う。
エイジは、そこで、はっきりとレオンに対して線を引いたのだろう。
「奨学金とかは……」
「ん……いや、とにかくもう心が折れたんだ、おれ。あのときは……メンタルが受験勉強どころじゃなくなった」
それを意思が弱いというなら、いえばいい。
「デジモン犯罪のせいでご両親をなくした……かもしれないのに……なぜ、そのことを知っても、きみはクラッカーを続けているんだ?」
レオンは、ひどく動揺しながらもハッカーらしくたずねる。
「それ、頭のわるい質問。犯罪者はデジモンを悪用したやつらだ。デジモンはツールだ。クラッカーの道具だ。そして、おれはデジモンを悪用して人の命を奪ったりはしない」
「…………」
「クラッカーやってんのは生活のため。不幸自慢じゃねーぞ……? だからこそ、おれはクラッカーに……龍泉寺教授が認めてくれた、この仕事に誇りを持っている。おまえなら……おれよりもずっと長いあいだ教授を尊敬してきたおまえなら、レオン……それがどれだけすごいことか、わかるだろ?」
あの龍泉寺教授が、クラッカーのエイジに期待してくれている。
だから、いまのエイジには、この道しかないのだ。
「エイジ……先生からどんな仕事を請け負ったの? ルガモンの育成だけじゃないはずだ」
レオンがたずねた。
「それは、言えねーな」
守秘義務だ。
「きみはSoCに属しているね。言わなくても、だいたいはわかるよ……あのねエイジ、ぼくは……」
「わりぃ」
ストップ。エイジは手のひらをレオンの顔の前においた。
「――おまえには、なんかな……ぜんぶ話しちまいそうになる」
エイジにとってもレオンは、親友だった小学生のときのまま……その感情がつながっているから。
でも人は、思い出のなかだけでは食っていけない。
「エイジ、時間」
ぴょこっと耳を立ててルガモンが告げた。
「ああ……じゃ、おれ、このあと龍泉寺教授と約束があるんだ」
エイジは立ちあがった。
「先生と……?」
「そう、クラッカーの仕事! 学生は勉強がんばれよ! またな……できたら、つぎはむずかしい話はなしで。ハタチになったら、いっしょに酒飲もうぜ」
エイジ、続いて席をはなれたルガモンに、パルスモンが「またね」の仕草をする。
「これ、やるよ」
パルスモンは、なにかをルガモンによこした。
「なんだ、これ?」
ルガモンが受け取る。
BOXで圧縮された、なにかのデータファイルだ。
「プレゼント! またなルガモン! こんどウォールスラムで九狼城――ジモトのディープなとこ案内してよな!」
キャラクターデザイン・挿絵イラストレーター:malo