DIGIMON 25th PROJECT DIGIMONSEEKERS

-NOVEL-

CHAPTER2
Hacker Leon:WWW Airlines flight626

Chap.2-12

聖騎士型デジモン

 エイジは死の光を見た。

 獄炎の魔狼ヘルガルモンは、忽然と現れた聖騎士型デジモンの放った砲撃をあびて、半身を氷漬けにされた。
 デジコアと一体化したまま、エイジの意識は……呼吸をやめる。
 息をつけない。
 この冷たさは氷点下の海、ひりつくほどの熱く凍えるイメージが脳に灼きつけられた。全身が硬直していき、意識して動かせるあらゆる部分がショック状態になる。
 とまっていく……生きたままデジコアのなかで意識がおぼれる。

 削られた。
 デジコアごと意識を、命を。
 あらゆる意思が、心が凍え、動かなくなっていく。

 あわれなヘルガルモン。
 ぶかっこうな、不完全な完全体は……ビクビクと痙攣しながら、暴れることさえできなくなった。

 オメガモンが左腕の〝グレイソード〟をかかげる。

 消去するモノ。
 ロイヤルナイツと分類される、究極体を超えた究極体デジモン。
 スペックは測定不能、未知数。コミュニケーションに成功した前例は皆無だ。目的も、なにもかもが不明。

 〝All Delete〟

 あの剣が突きたてられたときヘルガルモンは〝乱渦〟の藻屑となる。
 エイジの意識はノイズと化すはずだ。
 どうにもならない。
 生まれて初めて確実な死を前にしたとき、エイジは……驚いたことに、なにもできなかった。
 死は、ただ訪れる。
 勝つこと、人生、命をあきらめるとは……。

 ドンッ!

 衝撃。
 何者かが、そのときオメガモンとのあいだに割って入った。

 〝ルガモン〟……!

(この声は……?)
 なぜか、あの静電気……パルスモンの声が聞こえた気がした。
 エラーであふれる仮想モニタの前で、エイジは見た。
(レオン……!?)
 カヅチモンだった。
 横からタックルをしかけると、オメガモンの片脚を取りながら、そのまま体をあずけた。

 奈落へ落ちた。

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 オメガモンに組みついた〝雷神〟カヅチモンは〝乱渦〟に身を投じた。

 ドゴッ! ドゴッ!

 オメガモンは、エイジとヘルガルモンをにらみ続けながら、淡々とカヅチモンの背中に肘を打ち落とす。
 カヅチモンは組みついてはなさない。
 自分から落ちようとしていた。
 渦の底へ。
 そうして2体の究極体デジモンは、もつれあいながら〝乱渦〟にまかれて落ち、落ちて、遠ざかっていく。

 エイジ。

 声が。
 レオンだ。だが声はとぎれとぎれで、ひどく遠い。
 どこに……マインドリンクしたレオンは……カヅチモンのデジコアにいるのだ。
「レオン! 〝乱渦〟に落ちてるぞ!」
 エイジは叫んだ。
こいつは……ロイヤルナイツ……究極体を超える究極体……聖騎士…………最後の……」
 デジタルワールドのシステム管理者による、セキュリティウォールを守護する最上位のゲートキーパーAI。現状、人類との意思疎通は不可能。

 確かなことは
 ロイヤルナイツは、デジタルワールドのシステム管理者はリアルワールドで汚染されたデータを排除する。
 平等に、公正に、躊躇なく。
 消す。
 マインドリンクしたデジモンと人間にとっては、死をもたらす聖騎士となるのだ。

「レオン……レオっち!」
「ごめん、エイジ……きみの声が、もう聞こえない。この、ぼくの声が届いているのかもわからないけど……」
「!?」
「ごめんね。きみを救いたかった……でも、どうするのがよかったのか、わから

 声は、それを最後に途絶えた。

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 強烈な肘の一撃で、カヅチモンのタックルが切られた。
 オメガモンは〝乱渦〟から離脱しようとする。

 〝士道一徹〟!

 ふたたび電磁結界。
「させないよ……!」
 残されたマインドリンクの時間、最後の一撃のエネルギーを、カヅチモンは攻撃ではなく結界に使った。
 オメガモンはまた電磁結界を破ろうとしたが、今度はてこずる。
「この結界は内側からのほうが強固なんだ。ぼくの親友に手は出させない」
 カヅチモンはまた組みついて、オメガモンを羽交い締めにした。
 オメガモンは、ヘルガルモンに集中していた意識をいったん捨てて首を異様な角度でねじまげてカヅチモンを見た。

 死の天使の貌だ。

 レオンは、カヅチモンはひるまない。
 ハッカーの信念にかけて。
逃げるなよロイヤルナイツ。ぼくに残された時間、ぜんぶ、おまえにくれてやる……!」

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 2体の究極体が〝乱渦〟に落ちていく。

 そのときだった。
「…………! 通った!」
 エラーまみれの仮想モニタがクリアされた。
 通った……コマンドが。
 エイジの声が、やっとパートナーデジモンに届いた。
 オメガモンの〝ガルルキャノン〟で凍結していたヘルガルモンは、強制的にリカバリされてダウングレード成長期に戻った。
 いつも、部屋のロフトで寝転がっていた狼の姿に。
「ルガモン! しっかりしろ!」
「うっ…………エイジ……? おれ……?」
 ルガモンは……無事だ。
 こうしてエイジの意識もありツールが機能している。デジコアに致命的な損傷が生じたわけではないはずだ。
 相棒の復帰に安堵したのも束の間、エイジは自分の身代わりにロイヤルナイツを引き受けた親友に叫んだ。
レオン! わかった、おれの負けでいい! クラッカーをやめることも考えてやるから……逃げろ! 逃げてくれ!」

 エイジの声は、レオンに届いたのか。…………

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 アラート。アラート。アラート。

 カヅチモンのデジコアのなかで、レオンの意識は。
 仮想モニタのツールに表示されたマインドリンク残時間は、とうにゼロになっていた。
 Lライン。限界を超えても、なお

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 カヅチモンは、オメガモンを道づれにしてセキュリティウォールの奈落の底に消えた。
 やがて〝乱渦〟は静まり音もなく閉じていった。

 傷ついたルガモンを気づかいながら。
 エイジは、ノイズの浮島に取り残されたまま、なすすべがなかった。

キャラクターデザイン・挿絵イラストレーター:malo

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