DIGIMON 25th PROJECT DIGIMONSEEKERS

-NOVEL-

CHAPTER2
Hacker Leon:WWW Airlines flight626

Chap.2-10

 過去、セキュリティウォールの〝壁〟を越えて、人類が〝深層〟と呼んでいる領域に到達したクラッカー、ハッカーはいないとされている。
 ウォールゲートの〝門〟には強固な防護システムが存在し、リアルワールドからのトラフィックによるデータ汚染を防いでいた。デジタルワールドのシステムがある限り、人間はもちろんウォールスラムのデジモンも、ゲートの出入りは困難だ。
 しかしネットワークにある以上、完璧なセキュリティは存在しない。
 時折、セキュリティウォールには〝穴〟が生じる。
〝乱渦〟と呼ばれるその現象は、竜巻、台風のような自然災害だ。〝乱渦〟はウォールスラムの近辺にも発生して、まれに、そこに住むデジモンたちを危険にさらすことがあった。

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 パルスモンは光となってジャンプを繰りかえし、目指す座標にむかった。

このあたりだ」
 ウォールスラム、その外縁である鉄錆海岸からも外れたエリアだ。
 スラムから流れだしたノイズデータがただようばかりの場所。
 ここもセキュリティウォール〝壁〟の一部ではある。
〝壁〟とはいうが、セキュリティウォールは流動的だ。地球上に、ここと似たような環境など存在しない。宇宙のどこかにある液体金属の惑星、とでもたとえるしかない。

「それらしい反応はないな」
 パルスモンの視座を借りて、マインドリンクしたレオンはあたりを見おろした。
「降りてみよう」
 パルスモンはノイズの上に立った。
 エラーまみれの地面が、ひしめきあいながらズルズルと移動している。
「ウォールスラムから流れでた、ノイズデータの浮島といったところか」
 レオンが言った。
 あたりにはゴミあさりのデジモンの姿すらない。
 スケール感がおかしくなるが、上から見たときの想像よりもはるかに広くて、起伏に富んでいた。
 建物、樹木、そういった見慣れたものはなにもない。
 この浮島にあるのは、それ自体はなんら意味をなさなくなったモノばかりだ。なんというか……理解できない前衛芸術の画のなかに入りこんだ気分になる。

 彼方を見やる。

 セキュリティウォールの地平線は、まさに球だ。
 地球……月、もっと小さな小惑星ほどしかないようにも見える。
 人類が〝深層〟と呼ぶデジタルワールドは、この内側むこう側にある。
 それが、どのくらいの広がり、奥行き、容量を有しているのか。
〝壁〟のむこうには、もしかすると地球より大きな惑星、太陽系、銀河系、銀河団……それらに比する無量のエネルギーが存在している可能性だってある。
 人類は未だ、その表面の殻しか観測できていないのだ。

ねぇレオン、やっぱりガセじゃ……? SoCのリーダーが、ここに現れるなんて情報さ」
 パルスモンは乗り気でない感じだ。
「ぼくのアカウントに直接、接触してきた時点でイタズラじゃない。〝事情通〟からの情報には違いないね」
 ハッカーからか、クラッカーからか。
「ウソかホントかはともかくね」
 善意か悪意かでいえば、はるかに悪意の情報である確率のほうが高いだろう。
「デマならデマで、ハズレとわかっただけでいいんだ」
「デマならいいけど……罠かもよ? レオンはX国の件でSoCに恨みをかっているんだし」
 パルスモンが案じる。
「罠なら……大当たりさ」
 SoCとクラッカーを返り討ちにするだけだ。
「なんか、ヤバそうだしなぁ、ここ……」
 流れ続けるノイズの浮島の上で、パルスモンは居心地がわるそうだ。
「パルスモン、気を抜くなよ」
「おっと」
 ノイズデータがくずれて、パルスモンが足をとられた。

 〝ハウリングファイア〟!

 ゴウッ!

 燃える弾丸がパルスモンをかすめた。
「!? びっくりした!」
 パルスモンはバク転してかわすと、身構えた。
「!」
 足もとの浮島にひと筋の炎のラインが引かれて、消えずにくすぶっていた。

よう、パルスモン」
 現れたのは、ルガモン。
「よう、エリートハッカー」
 そして、マインドリンクしたクラッカーエイジだった。

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 ウォールスラム沖合の、ノイズの浮島。
 ゴミデータの陰に潜んでいたルガモンは、パルスモンに奇襲をしかけた。

「リーダー・タルタロスが現れる……匿名でタレコミ入れたのは、おれだよ」
「エイジ……!」
 ふたりは自分の姿をホロライズした。
 クラッカー・エイジ、そしてハッカー・レオン。
「ベタな手だけど、まぁ、来るしかないよな正義のハッカー様としては……! おまえはSoCにこだわっている。クラックチームをつぶすことに」
「エイジ……きみはSoCの意思を代表してきた、リーダー・タルタロスの代理だと考えていいんだね」
「ああ」
「ほんとうに幹部級だったんだ」
「ただの新人だよ」
「ふん」

 〝プチインパルス〟!

 パルスモンの前髪から放たれた電撃が、ルガモンの目の前の地面をえぐった。
 ノイズのカタマリが塵も残さず消し飛ぶ。

「あぶねっ……おい、パルスモン! 本気で撃ちやがったな!」
「不意打ちしといて、どの口が言うんだルガモン!」
「この静電気野郎!」
「犬っコロ!」

 たちまち2体のデジモンはヒートアップした。
 どちらもマインドリンク状態で相手を攻撃した。エイジとレオンにとって文字どおり命がけの戦いになる。
であれば……なんで、とか無意味な質問はやめておくよ」
「レオン……おまえと再会できてうれしかった。縁ってやつを感じた。でもな……それとこれとは別、こないだのはやりすぎだ……! メンツをつぶされたクラッカーがどうするか、ハッカーのおまえならよく知ってるだろうにな」
 ネットワークで自警団を気どっていれば、いずれ、こういうことになる。
「ぼくとパルスモンの首に懸賞金でもかけたかい?」
「そうだ……おまえはSoCの的にかけられた」
「一応聞くけど、そっちの条件は?」
「おまえが今後いっさいSoCに手出ししないなら、それでよし……X国とムゲンドラモンのことは不問にしとく」
 レオンを制裁する手段は、エイジが一任されている。
 マーヴィンや作戦に参加した幹部たちは納得しないかもしれないが、リーダーにかわって一任されたというのはそういうことだ。
 とにかく、レオンがタルタロスにひと言、わびればすむ。
「答えはノーだ」
「だと思ったよ。ケンカっぱやいし、ぜったいに手をひかないよな。クラッカーよりハッカーのほうがさ……!」
「ケンカか……これがケンカなら、回避する方法がひとつだけある」
「聞いておく。あとで泣き言を言われたくもねぇ」
「エイジ……クラッカーをやめて。金銭的なことが理由なら……援助をする用意がある」

 援助。

 それはレオンなりに考えた末の言葉だったのだろう。
 そして、それはエイジの心を逆なでにする、宣戦布告とおなじだった。
「…………! おれの身の上話を聞いて、同情したか?」
「人として当然のことだよ。ぼくには経済的な余裕もある」
「おれはクラッカーで生きていくと決めた。クラッカーとして人生に勝つと。そう決心したおれを、おまえは……レオン! 金で、自分を裏切れっていうのかっ!」
 頭に血がのぼった。
 デジタルの世界でも、こんなふうに意識だけで興奮するのか。
「裏切り……? ごめん、わからない。エイジがクラッカーをしているのは、お金のためなんでしょ?」
 レオンの表情に影がさす。エイジの言動が理解できないのだ、ほんとうに。
「わかってねーな。駆けだしでも、こっちはプロだ。学生が……おれの仕事をじゃまするな」
「ああ、龍泉寺教授の仕事だから? やり遂げたい?」
「…………! 答える義務はねー。おれはクラッカーなんだ!」
「ぼくはハッカーだからね」
 同類同族の両者をわけるものは、人それぞれの考え、信じるもの。
 レオンの心に彼の正義がある限り、クラッカー狩りをやめることはない。

 ハッカーとクラッカーが戦うのに理由はいらない。

〝正義〟と〝自由〟と。
 言ってしまえば、そんなものは人の好みの問題だ。
 だから、簡単に話しあいなどでは解決しない。
 レオンは、そこで視線を外しどこかを見た。
 エイジはつい、つられてそちらを見る。
「先生が……龍泉寺がクラッカーを使い捨てるところを、ぼくは何度も見てきた。そうだ、ゴミみたいにね」
 ニヤリと笑ったレオンの表情は、あのハッカーの顔だった。
「…………!? なんだと……」
 刹那、パルスモンがエイジの視界から消えた。

 〝エレキラッシュ〟!

 電光石火パルスモンが高速タックルをしかけた。
 ルガモンはギリギリのところでジャンプ、頭上で擦れ違う。

 不安定な浮島で、2体は位置を変えて対峙した。

「先生に……近づくな! 使い捨てのクラッカーが、あの人を利用するな!」
 レオンが叫ぶ。
 そのとおりだった。図星だ。
 エイジは龍泉寺教授を利用しようとしている。デジタルワールドで、転んでクソにまみれたリアルの人生を変えるために、勝つために。
 それの、なにがわるい。
 だれだって初めは、たいしたものなんか持っていないガキだ。レオンみたいに恵まれているやつは、初めから選ばれている。運命とか運とか、神様みたいなやつに。
 龍泉寺に選ばれている。小学生のときからだ。
「本音が出たな……!」エイジは言いかえした。「ハッカーとかクラッカーとか、正義だなんだといっても、おまえは……レオン!」
「クラッカーが近づくと先生の名声に傷がつく!」
「要するに龍泉寺教授に、ほかのやつが近づくのが嫌なだけだろ? エリートハッカーさん」
 たがいに相手の心を言葉でえぐる。
 エイジは、自分がだれかに対して、こんなに攻撃的になれるとは思っていなかった。
 でも、ここは学校じゃない。
 だれとでもなかよくしましょうとか、できもしない無意味なこと、大人になったらだれも言わない。そんなことを口にするやつは詐欺師だけだ。
 生きていくなら、本気なら
 かならず、だれかとぶつかる。戦う。
 そしてクラッカーは、ネットワークで負けるわけにはいかないのだ。
「勝てばいいというなら……そんなにパートナーデジモンを失いたいのなら! パルスモン、進化
 レオンは自らのホロライズを解除すると、デジモンを進化させた。

 成熟期を経由、一気に完全体へ。

 閃光のあと、X国データサーバでも見た、首に大きな数珠をかけた武闘家デジモンが登場した。

 突き・蹴り・受け。

 裂帛(れっぱく)の気合その拳は稲妻をまとい、捌(さば)きは風を断ち、踏みしめた足は地面を震わせた。
 息吹く。
 バウトモンは空手のカタを思わせる一連の動作をきめる。
「ビリビリくるな……! あいつ、やっぱとんでもなく強ぇ!」
 ルガモンは敵の強度をはかる。
「前はマーヴィンを逃がせばよかったけど、今日は……あいつに勝つんだ!」

 勝つ、勝つ、勝つ……!

「おう! 覚悟がなきゃ、ここにはいねーよ。こんなヤベーところに……!」
 ここはおそるべき〝乱渦〟の巣だ。
 エイジとルガモンは、あえてこの場を戦場に選んだ。
「ルガモン! 進化

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 ルガモンは成熟期ルガルモンに進化する。
 同時にホロライズを解除、エイジの視座はデジモンと一体化した。

 炎の魔狼と、雷の武闘家。

 2体のデジモンがノイズの浮島の戦場にまみえる。
「やっぱり、まだ成熟期どまりなんだね……でも油断はしないよ、エイジ」
 レオンとバウトモンに予断はない。
「ルガルモン……作戦どおり、いくぞ」
「おう」ルガルモンはバウトモンをにらんだ。「おい、静電気野郎! あとで泣くなよ!」
 ルガルモンは全身の毛を逆立てて、エネルギーを収束した。

 〝ハウリングバーナー〟!

 炎が、ノイズの浮島を横なぎにした。
 勢いよく立ち上がった炎が壁をなした。消えない魔炎だ。
「なんのつもりだ……?」
 レオンがいぶかる。
 確かにバウトモンから見てルガルモンの姿は、炎の壁にはばまれて見えなくなった。
 だから、どうした。
 X国データサーバのときとは状況が違う。
 たがいに攻撃を、相手に突きたてなくては勝機は見いだせない。勝たねばならないのだろう、この戦いは。

 〝雷撃踵(らいげきしょう)〟!

 踏ッ!

 かかと落とし。バウトモンが頭上高く振りあげた足で、炎の壁を踏みつぶす。
 消えない魔炎を踏み消すと、炎の壁に隙間ができた。
 ルガルモンは、
「いらっしゃーい」
「!?」
 魔狼は炎の壁のすぐそこで待ち構えていた。

 〝フレイムブロウ〟!

 至近距離からカウンターで炎のタックルをぶちかます。
 レオンとバウトモンは虚をつかれた。ガードが間に合わず、どてっ腹に体あたりを食らう。
 バウトモンは後退、足もとのノイズを土煙のようにまき散らして、踏みとどまった。
「こらえろバウトモン……! 炎がうっとうしいだけだ。ダメージそのものは成熟期レベル……なにっ!?」

 〝ファイアーブレス〟!

 さらに3方向から、火炎の息がバウトモンに放射された。
 炎にまかれたバウトモンは、たまらずガードを固める。
「この炎は……? ルガルモンとは違う!?」
 レオンは、あらたな炎の出所を目で探した。
 起伏のあるノイズデータの陰で、ちらちら頭を出しているデジモンが複数いた。
「……ティラノモンだと? いったい、どこにいた」
 レオンが計3体のティラノモンを視認する。
「3体とも自動操縦……うまく隠れていたな」
 バウトモンが言った。
 デジモンとしての個体デジコアはパルスモンとおなじだが、進化によって成長期のときとは声色が変わっていた。修行をつんだ武闘家らしく、落ち着いた口調だ。

マインドリンカーは、装着したデジモンリンカーと他のデジモンドックをあらかじめ同期、データ共有しておくことで、マインドリンクしたパートナー以外のデジモンをデジタルワールドに持ちこむことができる。ツール操作のみで、サブ機に格納したデジモンをBotとして利用することが可能だ。

「おまえが気がつかなかったのか、バウトモン」
「ここはノイズが多すぎる」
 ノイズデータの影響で〝ゆがむ〟のか。
 浮島エリア一帯は、デジモンの感覚器官を著しくにぶらせるらしい。
「エイジは……ルガルモンは、そのことを知っていたのか」
「だろうな。つまり……罠だ」
 バウトモンがつぶやいた。
 クラッカーたちは知っていて、この危険な戦場を選んだ。
「…………」
「どうする。あのクラッカー、それなりに工夫はするようだぞ」
 ティラノモンが自動操縦なら複雑な行動はできないはずだ。それでも、隠れながら敵をねらうというくらいの嫌がらせ目的なら充分だ。マインドリンクの持続時間も関係ない。

「レオン! どんな手を使っても、おれは、おまえに勝つ!」
 ルガルモンのデジコアから、エイジは声を上げた。
「クラッカーにとっての勝利って、いったいなんだいエイジ……? きみたちの行動に正義はない。あるのは自由というお飾りをつけた、身勝手だけだ」
「クラッカー、クラッカーって……! 十把一絡げにするんじゃねぇよ!」
「…………」
「おれはなレオン……おれと、相棒! ルガルモンとふたりで! 勝って、勝って、勝って、成功する! おまえみたいな勝ち組エリートに同情されなくてもだ! 証明してやるぜ、このデジタルワールドで……!」
 仮想モニタ上で、エイジは思考の速度でコマンドを打ちこむ。
 ティラノモンたちに距離をとらせて、もういちど埋伏させた。バウトモン相手に接近戦になれば、ツール操作の成熟期では3体いても相手にならない。

「吐ッ!」
 捌き
 全身を振り払う動作でようやく魔炎を消しさると、バウトモンは構え、手刀をルガルモンにさしむけた。

 ダンッ

 震脚。
 中国武術にある踏みつける動作だ。
 バウトモンが両足で踏むと、それだけで足もとのノイズデータが凹み、浮島全体が大きく揺れた。

 チカラを練っている。

「エイジ!」
「なにもさせるな、たたみかける!」
 収束熱線〝ハウリングバーナー〟がバウトモンをねらった。

 〝武電破弾(ぶでんはだん)〟!

 対し、バウトモンは両の掌(てのひら)から練りあげた気弾を放った。
 炎の熱線と、雷の気弾が激突する。
「…………!?」
「なんだと!?」
 エイジも、レオンも、たがいに目を見張った。
 炎と気弾は、たがいのデジモンの中央で激突、はげしく爆発する。

 ドウッ! ババババババッ

 たがいの攻撃の余波が、たがいに襲いかかる。
 ルガルモンは身をひるがえして距離を
「!?」
「攻ォッ」
 バウトモンはよけなかった。逆に、爆発に突っこんで一気に間合いをつめる。
 蹴りと拳(こぶし)のラッシュ。
 ショートレンジからの連続攻撃がルガルモンをとらえる。

〝迅雷廻天戟(じんらいかいてんげき)〟! これで決める…………ぐっ!?」

 だが、そこで再度3方向からの火炎放射がバウトモンをあぶった。
 ティラノモンのヘルプで、ルガルモンとエイジは、かろうじて距離をとりなおすことができた。

「くそっ、わずらわしい!」
 レオンは彼にしては珍しく、きたない言葉をはいた。
「落ち着け、レオン。いまのは確実にいいのが入った」
 バウトモンが相手をしめす。
 ルガルモンは毛を逆立てて、バウトモンをにらんでいる。
 笑っているようにも見えた。だが、呼吸しながら肩が大きく上下している。
効いているんだ。このペースで、じっくり攻める」
「そうだねバウトモン。でも……ただ勝つだけじゃ、だめなんだ」
 レオンはハッカーの表情で。
「…………」
「圧倒的にたたきのめさなければならない。いい勝負だった……みたいな空気、ほんのわずかでも残さないほどだ。でないとエイジに……クラッカーをやめさせることはできない。クラッカーが、いかに無意味で無力かを……わからせる! 心と体に……意識とデジモンに!」
「それでは、ルガルモンが無事ですむか、わからないぞ」
「デジコアだけは傷つけるな。それだけだ」
 レオンは決断した。
 一気呵成、制圧する。
 そのためには、やはり3体のティラノモンがじゃまだった。
「バウトモン、おまえは1対1の格闘戦タイプだ。多対一の戦いむきじゃない。でも……であれば、この戦場を自分有利な状況に持っていけばいい」
「わかった。すなわち、我、全力で挑もう」
「バウトモン、進化!」

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 紫電一閃。

 カヅチモン 究極体 神人型 ワクチン種

 あたりのノイズデータが、光の波動に触れただけで消し飛ばされた。
 進化。
 荒ぶる雷神が、轟音をとどろかせて顕現する。

荒ぶる雷神

 エイジとルガルモンは、ついに、倒すべき敵を戦場に引っ張りだした。
「くそっ! やっぱりカッコいいな究極体……!」
「はやく進化したいぜ!」
 だが、これで容易に敵に近づくこともできなくなった。
 プレッシャーがケタ違いだ。
「ティラノモンたち、おしっこちびって尻尾まいてるぞ。ムリもねぇが……おまえら、いったん下がってろ!」
「もどれ、ティラノモンズ!」
 エイジは3体のデジモンをドックに回収した。
「まだ、なにかをたくらんでいるのかいエイジ? でも……もう、なにも考えなくていいよ」
 ゆらり、とカヅチモンが動く。
 対の雷刀の切っ先は下をむいたまま。
「くっ……!?」
「クラッカーはハッカーには勝てない。信念がないからだ……カヅチモン!」

 〝士道一徹(しどういってつ)〟!

 雷雲が、天をおおう。
 稲妻が手を伸ばす速度でコードが発動、たちまちあたりの領域を……仕切った。

 空間は断絶する。
「なんだ、これ……!?」
 エイジはあっけにとられた。
「デジタル結界……! 野郎、おれたちをやつらのリングに引きずりこみやがった」
 待避しようとしたが間にあわない。
 カヅチモンを中心にして発生した球状の電磁結界のなかに、ルガルモンは閉じこめられてしまった。

 フッ!

 刃振り。
 カヅチモンが雷刀を振るい、結界内のじゃまなノイズデータを消去していく。
 ルガルモンは手近にあったなにかのカタマリを、結界の内壁めがけて尻尾で打った。

 バヂバヂヂヂヂッ! バヂィ!

 はげしい炸裂音結界壁にぶつかったカタマリは、火花にからめとられて灼かれたあと、はじかれて塵と化した。
「獣よけの電気柵だな、こりゃ」
 ルガルモンは理解した。ふれた瞬間、強力な衝撃電流が流れる仕掛けだ。
「電気殺虫器じゃん! あたっただけで黒コゲかよ、このビリビリ壁!」
 昔、コンビニの軒下なんかによくあったやつだ。エイジは虫けらの気持ちがわかった気がした。
 こんなの、電流爆破デスマッチのリングだ。
 罠にハメたつもりが罠にかかってしまった。
この結界を破るのはムリだろ。さすが究極体、いろんな技もってやがんな……おい、静電気野郎!」
 ルガルモンはカヅチモンに声を投げた。

 究極体は無言。

 なにかを口にしようというそぶりすらない。
 進化を極めていくほど、デジモンはより研ぎ澄まされた存在となっていくという。
 時として、それは超然のイメージ神仏妖魔のごとき姿をとる。カヅチモンは雷神、まさにそのものだ。
「なんだ、お高くとまってやがんな……?」ルガルモンはあおった。「神様にでもなったつもりかよ? てめーには、山ほど、言いたいことがあったんだ。いちいち下に見やがって! つぎ会ったら、戦って、戦って、けちょんけちょんにして……」
「どっちがだい、ルガルモン」
 レオンがあおりかえす。
「だまってろよ人間……! おれはそいつと話してるんだ。おまえと戦って、どっちが強いか白黒つけて、そんで…………へっ、シカトすんなら仕方ねぇ」
 ルガルモンは、ひとりで話しているのがバカらしくなった。
「勝つぞ、ルガルモン!」
 エイジは自分たちを鼓舞する。
「だな……話は、それからだ!」
 逃げることはできない。逃げ隠れする場所は、どこにもなくなった。
「あまり、気安く勝つとか言わないほうがいい」
 レオンがカヅチモンが、ゆっくりと近づいてくる。

 フッ! フッ!

 対の雷刀が見えない速度で空を斬る。
「負けたとき、自分がみじめになるよ……?」
 レオンが告げた。すぐにおわる、と。

 〝二刀勢雷〟!

 エイジは、かろうじて悲鳴をこらえた。
「…………ッ!」
 まるで……自分が斬られた感覚が。肩口から真っぷたつにされたイメージが……。
「剣圧だけで、この威力か」
 ルガルモンがうなった。
 デジコアと一体化している以上、デジモンが斬られれば、エイジは実際にケガはしなくとも痛みのイメージを共有させられる。
 そして最悪、デジコアが破損するようなダメージを受ければ、マインドリンクした意識もただではすまない。
 DMIA。
 このネットワークの片隅で、人生の墓を建てることになるのだ。
「ぼくが、間違っていた」
「なにっ……?」
 レオンの言葉の意味が、エイジにはとっさにわからなかった。
「きみに与えるべきは同情でも、お金でもなかった。ごめんねエイジ……そんなにも、きみは……〝敗北〟がほしかったんだね」
「なにを言ってやが……レオン!」
「勝ちたいから不安で、そうやって叫ぶんだ。勝てないなら……ぼくに負ければ、ぼくの言うことを聞けば、きみの、そのちっぽけな不安はすべて消えるはずだよ。さぁ、エイジはクラッカーをやめる」
「違う……! おれは……」
「クラックチームなんていう、タチのわるい熱病も醒める。これが、ぼくが……きみにできることのすべてだ」

 違う。

 ちがう……でも、レオンの言葉はカヅチモンの言葉でもある。
 究極体は、デジタルワールドにおいては〝神〟にも等しいチカラを宿す。
〝神〟の言葉は具現する。
 エイジがどう思うかにかかわらず。ただの人間は……無力にあらがうしかない。

 勝ちたい。負けたくない。

「デジタルワールドで人生を変える! 同情も、不安も、負けるのも、みじめなのも……もうたくさんだ!」
 エイジは声を上げた
 龍泉寺教授の期待にこたえようとするときが。
 クラッカーの仕事に夢中で挑むときが。
 相棒のデジモンと進化を目指す〝強さ〟を求めるときだけ、エイジはリアルの不安をわすれて集中できる。
 強くなること、イコール、クラッカーとしての成功だからだ。
(レオン……! おまえがいなければ……いや、おまえがいるから……!)
 ジャマをするな。
 いきなり現れて、これ以上……エイジから奪うな。

 勝つ。

 勝つ。

 エイジは勝つ。

 進化……。

 進化だ。エイジとルガルモンには、もっと、もっと、もっとチカラがいる。
 チカラがなくては、どんなに大切な言葉も約束も、デジタルワールドの塵と化すのだ。
「ルガルモン、進化」
「エイジ……」
「ルガルモン……! どうした、完全体になるんだろ!」

 フッ! フッ!

 刃振り、カヅチモンは対の雷刀を頭上高く構えた。
「このカヅチモン、最大の奥義でおわらせる……!」

 フッ!

 X国データサーバで、あのムゲンドラモンを屠った大技だ。

 〝神電召雷光〟!

 カヅチモンが頭上で交差させた刃の切っ先、その一点に電気エネルギーが集中していく。
 空間的、時間的圧縮わずかに時はかかるが、そのための〝士道一徹〟との合わせ技だ。
 この電磁結界に逃げ場はない。
 エイジは、デジコアのなかで叫んだ。
「おれは勝つ! レオン……たとえ、おまえを踏み台にしてでもだ!」

          ルガルモン
進化だ

キャラクターデザイン・挿絵イラストレーター:malo

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