DIGIMON 25th PROJECT DIGIMONSEEKERS

-NOVEL-

CHAPTER1
Eiji:Wolf of ninth avenue

Chap.1-9

 エイジは龍泉寺教授に、武闘派クラッカー集団サンズオブケイオス(SoC)の調査を依頼された。

 いちクラッカーとしてSoCに参加。リーダー・タルタロスと接触をはかり、その目的を探ってほしい。

 クラックチームでも最悪最強といわれる武闘派組織SoC。
 それが近々、大規模な〝活動〟を計画している兆候があるという。
 世界じゅうの諜報機関、警察が動いていたが、龍泉寺としてもデジタルワールドのことはまったく他人事ではなかった。そこで独自にクラッカーをやとって調査をするのだ。

 デジタルワールドとデジモンを守るために。

 報酬は破格。
 でも、なによりもエイジの心を動かしたのは龍泉寺の、その気もちだった。
 SoCとタルタロスの活動によって、国際社会がクラッカーばかりかデジタルワールドを危険視し、デジモンを敵視するようなことになれば……。

 デジタルワールドの生態系、すなわちデジモンの命にかかわることになる。

 かつてヨーロッパやアメリカ、日本でも、家畜をおそうというだけで狼は根絶やしにされた。そんな悲劇をデジタルワールドで再現することは、さけなくてはならない。
 デジモンは生きている。
 尊敬する龍泉寺の考えを聞いて、エイジはつよく影響された。
「つまり、おれはスパイなわけよ」
 エイジは話しかけた。
 自宅の極狭ワンルーム。
 ロフトの布団の足もとに、もふもふしたカタマリがおなかを見せてひっくりかえっている。
 ルガモン、のホロライズだ。賃貸でペット不可なのだが、デジタルペットはそのかぎりではない。
「いいかルガモン! おれたちでSoCに潜入する。伝説のクラッカー・タルタロスの正体にせまるんだ。なめられるんじゃねーぞ」
 話しかける。
 デジモンに話しかけるなんて、これまで、したことはなかった。
 ルガモンは、ひっくりかえったまま犬コロみたいに首をかしげた。
 デジモンが人の言葉をどこまで理解しているかについては、いろんな見解があるが……。
「なんたって相手はSoC! クラッカーでも筋金入り、超コワいオニイサンたちだ。なみのティラノモンじゃナメられちまう。そこにいくとおまえは、成長期といってもレア感はマシマシだもんな」
 エイジの――クラッカー・ファングの名前を売りこむ。まずは、そこからだ。
 手をのばす。
 ルガモンのおでこにある、例のパーツあたりをなでる。
 もちろん実際にはさわれないのだが……とたんにルガモンはうなり、歯をむいた。
「あー、いやなのね。ごめんごめん……そういや昔飼ってた犬も、なでようとすると不機嫌になったっけ」
 両親にはなついていたが、なぜかエイジにだけは、そういう態度をとる犬だった。

 アラームが鳴った。

 約束の、仕事の時間だ。
「行こうか、ルガモン」
 ホロライズを解除。ルガモンはデジモンリンカーの画面のなかにもどる。
 ボイスチャット用のインカムを耳にかけると、エイジはロフトの壁にもたれ、デジモンリンカーのメニューをひらいた。
 ヘッドアップで仮想モニタが投影される。これもホロライズ技術の応用だ。

novel_deco 仮想モニタ

 仮想モニタでネットワークにつなぎ、GriMMに移動。
 SoCへの参加そのものは、なにもむずかしいことはない。
 GriMMのメンバー募集から招待コードを手にいれれば、アルバイトの求人感覚でSoCの専用チャンネルへの参加が可能だ。
 エイジはあらかじめSoCに応募して、約束をとりつけていたのだ。

SoCが相手をするのは、政府機関、軍、警察、世界的企業……そういう手合いです。もとめられるクラッカースキルは、はっきりいってレベルがたかい。さらにいえばリスクしかありません」
 SoCの先輩メンバーが、ボイスチャットでエイジの相手をしてくれた。
 オンライン面接だ。
「参加希望はかんたんだけど、クラッカーとしてのスキルがたりなければ門前払いか」
「あなたはどうでしょうか、新人さん」
「〝ファング〟だ」
「ええ、クラッカー・ファング。あなたの、いまのリアルの生活を天秤にかけてでも、SoCの活動に参加したいですか」

 相手のユーザーネームは「面接官」とだけある。

 GriMM上でのアイコンは、ネクタイをはちまきにしたテンプレ的な昭和のサラリーマン風。なんとなく……係長? 声は、いい歳をしたおっさんのようだが。
「あのさ……逆に、スキルがみとめられれば〝タルタロス〟に会えたりする?」
 エイジはがんがん、くいついた。
 クラッカー同士は、ネット上では基本的にタメ口OK、フランクな話しかたになる。
「リーダーに興味が?」
 面接官の声に、いくぶん警戒の色がまざった。
「そりゃ、もう! 伝説級の天才クラッカーでしょ!」
「はっはっは……あなた、めちゃくちゃ若いでしょ。高校……いや中学生?」
 面接官は笑った。
「そういう面接官さんは、いくつなんです?」
「還暦のジジイと答えても17歳のJKと答えても、そんなこと、どうやって証明するんです? ここでは、それぞれが信じたようにしか見えないし聞こえない」
「ことさら自分のネットリテラシーの高さを主張するのは、ある特定の、辛い世代のおっさんの特徴ですよね」
 エイジは直感した。たぶん面接官のリアルもおっさんだ。
「…………」
「あ、つづき、どうぞ」

 ちょっとした間があった。

「…………リーダー・タルタロスは謎です。私のような末端メンバーは声さえ聞いたことがない」
「謎」
 そういう設定か。
「あなたが自分で思っているような天才クラッカーで、実績をあげれば、ほっといても幹部のだれかが接触してくるでしょう。幹部のチャットに参加できたら、タルタロスと話せるかも」
 なかなか先はながそうだ……。
 リーダー・タルタロスに接近する方法はわかった。とにかくSoCの活動に参加して、ガンガン実績を積む。実力主義ということだ。
「で、これから請ける仕事がSoCの採用試験なわけ?」
「そう思ってくれてかまいません。参考までに難易度は準A級相当……ファイルはGriMMで共有しておきます。ミッションの専用チャンネルをひらいておきますね」
 仮想モニタに作戦の概要が表示された。
作戦名は……ええと、なんでもいいんですが」
「〝後門の狼〟作戦」
 エイジは作戦名をリクエストした。
「…………? それは」
「いや、思いつき」  深い意味はない。
 しいていえば狼――ルガモンの初陣であること。エイジがクラッカーとして覚悟を決めた、あともどりはないという……気合いだ。
「a wolf at the back gate……わかりました。ながいので『狼作戦』で」
「はしょりすぎー」
「難易度準A級……ほんとうにいいのですか? 十中八九、あなたの大切なデジモンを無策にうしなうことになります。いうまでもなく保証、補填はありません」
「了解。歓迎会の準備をしといて」
「歓迎? なんのですか」
「あらたなSoCの幹部誕生を祝って」
 大言壮語。
 しかし無策ではなかった。エイジには、とっておきがあるのだ。

 SoCへの潜入にあたって、きみのデジモンリンカーの機能を限定解除した。

 たよれる龍泉寺は、今回の依頼にあたって、クラッカーとしてのスキルを一気にアップする手段を用意してくれたのだ。  D4の研究成果。  まさに〝軛〟をこえるための

(見てきてやる! 超一流が見ているセカイを……できる! このデジモンリンカーと、龍泉寺教授がくれたルガモンがいれば!)

 深呼吸。
「作戦の内容はファイルをご確認ください。では、成功をおいのりします」
「ありがと、面接官さん」
 エイジはデジモンリンカーの画面を見つめる。
 ちいさな画面のなかで、ルガモンがこちらを見ていた。
 無言で。
(デジモンが生きている……龍泉寺教授がいっていた意味が、きっと、わかるはずだ!)
 メニューを選択。

 >mindlink

 センサーが生体情報を計測、バイタルチェックのあとでコマンドを許可した。
 限定解除。
 意識は光になって解きはなたれるだろう。

 さぁ、

 〝マインドリンク〟!

キャラクターデザイン・挿絵イラストレーター:malo

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