DIGIMON 25th PROJECT DIGIMONSEEKERS

-NOVEL-

CHAPTER1
Eiji:Wolf of ninth avenue

Chap.1-16

 ヌメモン 成熟期 軟体型 ウィルス種

 ホロライズした副班長が、ヌメモンの背中に乗った。
 ヌメモンのサイズは人間比で軽トラックほどもある。警察車両あつかいらしく、頭に、ちょこんとパトランプをのっけていた。
「逮捕だ逮捕! おねーさんトサカにきちゃったよ……! あたしを、だれだと思ってんの! 警視庁生活安全部サイバー犯罪課捜査第11係デジモン犯罪対策チーム、副班長・玉姫紗月だコノヤロー!」
「なげーし」
 クラッカーたちはデジ対と通称していたが、具体的に「11係」とかいうのは初耳だ。
「あ、所属……これいっちゃだめなんだった!」サツキは両手で口をおさえた。「おいデコ助ども! いまのなし!」
「しらねーし」
「つか、さっきから、ひとのことデコ助デコ助よびやがって……」
 ルガモンは不機嫌そうに、ひたいのインターフェイスを前脚でなでた。
「だって、デコっぱちだろ! 犬っころ!」
 副班長サツキはひかない。
「デコスケの警官にデコ助いわれる筋合いはねーな! 泣かすか……? おれは、このインターフェイスが気にいってるんだ。おれのデコを笑うやつはゆるさねぇ!」
「四の五のいうなデコ助デジモン! いくぞコマンドラモン、ぶっぱなせM16
「サツキちゃんって、どんな字書くの?」
 エイジは場をなごませようとした。
「は…………? 将棋の玉にプリンセスの姫、糸へんに少ないと書いてお月様だよ! って、個人情報~~~~!」
 やっぱりテンパっている。からかうと、おもしろくてくせになりそうだ。
「おれはエイジ、永住瑛士」
「聞いてないからぁ~……」
 サツキはしつこいナンパをおいはらうように、手でのけるしぐさをする。
「じゃなくって、おれはクラッカー・ファングだった。サツキちゃん、いまのなしで!」
「いーや、しらべる手間がはぶけたわ……ナガスミ・エイジ! あんたをマインドリンク可能なA級以上の一流クラッカーと認定!」
 サツキはズバッとエイジを指さした。
「やった、サツキちゃんのお墨付き! ルガモン! おれ、一流クラッカーになっちゃったみたい!」
「なおA級以上のクラッカーは自動的に警視庁ブラックリスト入り! もう、まともな人生おくれると思うな反社会分子! おまえの行き先は、どうせ塀のむこうだ!」

 ヌメ~!

 ナメクジが鳴いた。
「敵が成熟期だからって、びびんな」
 ルガモンは戦闘態勢。
「おれ、ぬめっとしたやつムリなんだよ生理的に~……とろろとかオクラとか納豆とか」

 ブリッ! ブブブブブッ!

 ヌメモンが体内から排出弾を撃ちだした。
 さながら速射砲だ。
「納豆が食えないとかいう軟弱者は、デジモンのエサでもくらってろ!」
 サツキがあおる。
「エサじゃなくて、これ……ウンコじゃねーか!」
 エイジとルガモンは、あわやというところでヌメモンの攻撃をさけた。
「最低な攻撃だな……だから5番街のゴミためにいそうなデジモンは品がないんだ。あの、うるさい女にはお似合いだが」
「あのー、ルガモン……聞こえてるよ。おまえ、女の人怒らせるの上手いのかなー」
 エイジは汗ジトになったが、もうおそい。
「この、デコ助の犬っころ……! あたしはともかくヌメモンの悪口をいうなぁ~!」
 そこが怒りのツボなのか。
 ヌメモンの巨大排出弾がふたりをねらった。
 ルガモンは、ちいさく跳んでよける。

 弾は壁ではねかえってエイジを直撃した。

「あ、わるい。おまえがいたんだった」
「たすけて、ルガモ~ン!」
 エイジはもちろんウンコまみれだ。
「跳弾でよかったな。運がついてた」
「オヤジギャグ~……! ううっ……肥だめにはまるとか、いまどきギャグマンガでもねーだろ、この展開。マインドリンクなんかするんじゃなかった……!」
 エイジは泣いてしまった。
 マインドリンクしていると、ヌメモンのウンコはわかりやすくウンコだし、臭いもウンコだし、こんなの戦意はガタ落ちだ。
「きゃはは、ぶざま~! あたしのいとしいヌメモンをバカにするやつは、いい気味だ!」
 ヌメモンの上でサツキは大笑いだ。
「サツキちゃん……ちなみにヌメモンの、どんなところ愛してるの?」
 ウンコをぬぐいながら、エイジはたずねた。
「このテカり、ヌメり、そして秘めたる獰猛さ……うっとり♡ あたし、リアルでもイボイボナメクジを飼ってるんだけどね、ほかのナメクジやカタツムリを捕食しちゃうの。もぐもぐ、ゾクゾク……」
「あ……あとで動画探してみます」
「見てみる?」
 サツキは頭上に仮想モニタをひらくと、どっかの動画サイトにつないだ。
「ここではやめてくださいー」

 ……………………。

 サツキは好きなもののことを話はじめると、場の空気を無視してとまらなくなるタイプだった。
「おいエイジ……じゃなくて〝ファング〟だっけ?」
 ルガモンはいちおう設定を確認した。
「もういいよ。いろいろあって心が折れた」
 エイジはいじける。
「あー……ったく」ルガモンは舌打ちした。「マインドリンクしている以上、クソめんどうだが、おれとおまえは一心同体だ」
「そうだった……! いくら一流クラッカーになれても、こんなとこで捕食……じゃなくて逮捕されるわけにはいかないんだ!」
「いったんホロライズ、切れ。もどってこい」
「おれ、ウンコまみれだけど」
「ウンコは落としてからだよ!」
 ルガモンにいわれて、エイジはホロライズを切った。
 姿が消える。ウンコだけが、その場にボタッとのこされた。
 エイジは、ふたたびルガモンのデジコアへ。

 ルガモンの視座に立つ。

 エイジの意識はヘッドアップの仮想モニタとつながる。
 ツール起動、AIモードを〝バトル〟に。

「コマンドラモン、投擲!」

 〝DCDボム〟!

 機先を制して、コマンドラモンがいっせいに爆弾を投げた。
 ルガモンは四肢で地面をつかむと、一足跳びに爆発をさけて、広場をかこむ違法建築の垂直の壁をかけまわって逃げる。

 〝ハウリングファイア〟!

 炎の壁でコマンドラモンを分断、混乱させる。
「ちっ……消えない〝魔炎〟か! 焚き火程度だが、めんどくさい!」
 サツキを乗せたヌメモンは、炎をおそれることなく前進した。
「ナメクジ野郎め、おれの炎をものともしねーか」
 ルガモンがうなった。
 ヌメモンのヌルヌルした粘液が、炎をあるていど防いでしまうようだ。
「ルガモンの炎が効かないのか……!」
「相手はウンコでも成熟期! コマンドラモンもいる! おれの全力を出さなきゃ、この場はきりぬけられない!」
 ルガモンは、あえてエイジをためすように。
「成熟期……全力って、進化のことか……!?」
「そうだ進化だ、エイジ!」
 ルガモンがよびかける。
「できるのか……いま、ここで」
「デジモンリンカーの限定解除はかざりかよ……! おまえとのマインドリンクも、だいぶなじんできた。それに……なにより、おれが、おれを、おさえられねぇ」
 蒼き狼は毛を逆立て、キバをむく。
「ルガモン……!」
 エイジの意識にも、ぞわっと鳥肌が立つ感じがつたわった。
「ウォールスラムに来てから……この九狼城に来てからだ。おれのなかにある、なにかが……〝チカラ〟が、いまにもあふれだしそうだ……!」
 まるで自分のなかに、自分ではない何者かがいるようだと。
苦しいほどだ……進化したい! このパワーに、成長期の体はちいさすぎる!」
 ルガモンの叫びとともに、仮想モニタにアラートが点滅した。

 〝進化〟(DIGIVOLUTION)

 ツールが、ルガモンの身に生じつつある変異をつげた。
「進化……よし! おれもルガモンと進化して、超一流のクラッカーになるんだ! こんなところでつまずいてられねぇよ! おれはデジタルワールドで、勝つ……!」
 エイジは心を鼓舞する。
 自分をおさえる必要はない。
 できる……ネットワークでならできる。デジモンの爆発的成長をうながす。

「デコ助め……なんか、たくらんでやがるな……? 一気にきめる! ヌメモン、特大のやつをおみまいしてやれ!」
 サツキがぶっそうなことを命じた。
 ヌメモンはその場で、きばりはじめた。

「ルガモン〝進化〟

 ドウッッッ

 進化のかがやきエイジの仮想モニタに表示されたルガモンの全パラメータが、一気にはねあがる。

「警告! 警告! ターゲット、進化します!」
 上空のカーゴドラモンが警報を発した。
「進化だと……? くっ!」
 サツキの頭上には渦巻く赫き炎が。

 衝撃波。

 カーゴドラモンが挙動を乱す。
 サツキはヌメモンの背からふき飛ばされた。

 ルガルモン 成熟期 魔獣型 ウィルス種

ルガルモン

キャラクターデザイン・挿絵イラストレーター:malo

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