DIGIMON 25th PROJECT DIGIMONSEEKERS

-NOVEL-

CHAPTER1
Eiji:Wolf of ninth avenue

Chap.1-15


カーゴドラモン

 ウォールスラム9番街。
 九狼城上空に出現した警察仕様のカーゴドラモンから、警告が投げられた。

「――警ら中に情報があってよってみれば……やい、くそクラッカー! こちとら警視庁、泣く子も黙るデジ対だコノヤロー!」
「デジ対……!」
 やはりだ。クラッカーにとっては鬼より怖いなんとやらだ。
 対サイバーテロ、対デジモン犯罪ということなら、日本に彼ら以上のカウンター・デジモン部隊は存在しない。
「すっげー、はじめて見た!」エイジは興奮した。「かっこいい! ルガモン、カーゴドラモンの写真撮って、撮って!」
「おれの目はカメラじゃねぇ」
 ルガモンはカーゴドラモンをにらみあげる。
 その機体に内蔵されている強力なセンサーが、ルガモンにむけられていたのだ。

 ML(マインドリンク実行中)

 探られていた。職務質問、持ち物検査だ。
「おまえら、あのクソにもおとるド外道のSoCだな! しかもマインドリンカー……あのタレコミ、フカシじゃなかったのか」
「タレコミ? フカシ?」
 エイジには、なんのことかわからない。
「ごていねいにホロライズまでしくさって、ナメてんのかヨユーこいてんのか……おい、そこのボケっとしたクラッカーとデコ助のデジモン!」
「ボケっと?」
「デコ助?」
 エイジとルガモンは見あった。
 どうやら、ルガモンのひたいの例のパーツをからかってデコ助といってるようだが。
「ちょいと顔貸せ……署までご同行ねがおうか」
「それって任意でしょ? 仕事中なんで、じゃ」
 エイジはスルーして立ち去ろうとする。
「おおおう、ナメてんな……ぶっぱなせ〝M16アサシン〟!」

 ダダダダダダッ……!

 十字砲火。
 指揮官らしきインチキ江戸弁女の号令で、左右にわかれたコマンドラモン分隊が動いた。
「ええええっ! 撃ってきた!」
 エイジはうずくまった。その頭上で火線が交差する。
「警告射撃だよ」
「どこが!」
 エイジはデジ対の指揮官にいいかえした。
 どこの世界に、アサルトライフルのフルオート全力射撃でおこなう民間人への警告がある。
 と、カーゴドラモンからロープでだれかが降りてきた。
「婦警さん……?」
 エイジは、ほっ、と息をもらした。
 あっちもホロライズだろうが……どうやら彼女が声の主、指揮官らしい。

 肩口でそろえたボブヘア、黒髪にグリーン系のインナーカラーを入れている。ギャルよりのメイク、キャップにハイブーツをあわせてジャケットは着崩していた。警察官としては個性的な印象だ。

「あれ……カワイイかも」
 エイジの第一印象はそんなんで。
「それは聞きあきてる」
「うわ、自己肯定感、強!」
 エイジにかぎらないだろうが、たいていの男が腰がひけてしまうタイプだ。
「やいSoCのクラッカー、おまえの仕事って、なんだ? デジタマの密猟か? 現行犯でしょっぴくぞ!」
 カワイイけど口が悪くて性格難あり……いいや、仕事熱心なようだ。
「むちゃくちゃいうな、あのデジ対のねーちゃん」
 コマンドラモンの銃撃を警戒して、ルガモンも姿勢をひくくしている。
「なぁ、ルガモン……ちなみに、もし弾にあたったら?」
「あ? ためしてみれば」
「えー」

 ガガガガガガガガガガガガッ!

「ぎゃー」
 悲鳴。
 カーゴドラモンの機体に懸架されたバルカン砲が、ふせているエイジの眼前に30ミリ弾の束で穴を掘りまくった。
 銃煙の臭いがただよう。畑でも、たがやす気か。
「なんどもいうが、デジタルワールドではデータが実体だ」
「理解しました……」
 エイジはふるえた。
 弾にあたったら、ふつうに痛くて死ぬ。エイジの精神はコナゴナになる。そんな気がした。
「気やすく、ねーちゃんとかよぶな……! おのれらマインドリンクしたまま逝くか?」
 指揮官の彼女はぷんぷんしている。
「沸点ひくぅ……!」
「メカノリモンもつれてりゃよかったな……一瞬で灼き殺してやったのに。まぁメンテ中なわけだが。おい、くそクラッカー! 最後通牒だ!」
「なにをしてたかって……お・さ・ん・ぽ! マッピングしながら歩いてたの! デジタルワールドの……そう、学術調査!」
 エイジは声をはりあげた。
 ものはいいようだがウソはいっていない。
「なんだと……カーゴドラモン!」
「デジタマ、捕獲したデジモンの反応はありません、副班長」
 カーゴドラモンがサーチ結果を報告する。
「つまり……?」
「彼らは主張どおり、ウォールスラムをおさんぽしていただけのようです」
「くぅ~!」
 副班長とよばれた、うるさい彼女はがっくりした。
 いくらSoCが危険なクラッカー集団といっても、それだけで逮捕はできない。ささいな落ち度をつついても不起訴になるだけだ。
「ここはウォールスラム9番街、あの九狼城だぞ!? 地獄の9丁目! あたしらデジ対だって、それなりの装備がなきゃ踏みこめない……魔窟だ! こんなぶっそうなところで、おさんぽしてるだけとか、てめー充分あやしい!」
「だめだ……あのねーちゃん、いちいち人生テンパってる」
 エイジは会話をあきらめた。
 頭をかかえながら、仮想モニタでマップを確認する。
 コマンドラモン、そして空中のカーゴドラモン……。
(ほかにもいる……? まだ、カーゴドラモンになにかが乗っているのか?)
 増援もいるのだ。きりがない。
「いったん逃げよう、ルガモン……ルガモン?」
 エイジが顔をあげたとき、彼のデジモンの姿は、すでにそこにはなかった。

 〝スパイラルバイト〟!

 するどいキバがボディアーマーをえぐる。
 マップのマーカーが、ひとつふたつと消失した。
 銃弾を防ぐコマンドラモンの装備を、ダンボールみたいに破って、つづけざまになぎたおす。
「え……?」
 エイジは、あっけにとられた。
 あっという間だ。
 やりかえしたのだ、ルガモンが……するどいキバとツメだけで倒したのか。
 ルガモンは九狼城の廟のまえに立っていた。

 ここは、おれのナワバリだ。

 そう主張するように遠吠えを。
「こ、こ、こ、公務執行妨害! てめぇ……! ナニモンだこのやろう! はっ……まさか、罠か?」
 デジ対の副班長は声をひっくりかえした。
 タレコミ自体が罠だったそう思ってもおかしくはないだろう。
 でも、もっとおどろいていたのはエイジのほうだ。
「フル装備のコマンドラモンを一瞬で2体も……ルガモン、めちゃつよいじゃん! いや……だめだろ! なんで警察に手ぇ出してんの!」
 エイジは、またまた頭をかかえることになった。
「なんでだ? やったらだめなのか?」
 ルガモンは犬みたいなしぐさで、クーンとないて首をひねった。
 コマンドラモンはたおされた仲間を回収しつつ、ルガモンを遠巻きに再包囲しようとする。
「警察に手を出したら……パクられちゃうの! 逮捕よ逮捕!」
「デジタルワールドにそんな法律はねぇな。ウォールスラムのルールは食うか食われるか……」
「えー」
 エイジは頭をかかえながら、とにかくGriMMにつないだ。
 SoCの面接官に状況をつたえようとする。
「……てか、面接官のおっさん、離席中じゃねーか!」
 ひどい話だ。
「よくも、あたしの部下をかわいがってくれたなぁ……!」
 ホロライズした副班長は袖をまくりあげた。
「あれは……デジモンリンカー!?」
 エイジが気づく。
 彼女の腕には時計――スマートウォッチ型のドックが装備されていた。警察カラーの色ちがいだが、エイジのものとおなじタイプに見えた。
「おまえら、あたしのことナメてるだろ……!」
 いきなりパトランプが点灯、警告灯が回転した。
「なに、この演出……? ホロライズ便利すぎる!」
「あのねーちゃんもマインドリンクしてやがるぞ」
 ルガモンはエイジのそばにもどって、身がまえた。
 AE社は、警察のさまざまな電子装備を受注していた。そもそも龍泉寺は警視庁の顧問だったはずだ。
「マジか……!」
「パートナーのデジモンは……あそこだ!」
 ルガモンがカーゴドラモンを見あげた。

 ドンッ

 上空でカーゴドラモンが動く。
 ローターの角度をかえて、やや機首をあげながら後部の大型ハッチをひらいた。
 機内に待機してた、なにか――デジモンが姿をのぞかせた。

 ぐにょっ ぬちゃ……ぬちょぬちょ…………

「なんだ、あれ……!」
 エイジは怖気が立った。
 おぞましく身をくねらせながら、そいつはハッチから強引にはいずりだして落下、べたん、と着地した。

 ヌメェ~~~~~~~~!

 それは、でかいナメクジだ。
「うぇええ! ヌメモン!」
 エイジは悲鳴をあげた。

キャラクターデザイン・挿絵イラストレーター:malo

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