DIGIMON 25th PROJECT DIGIMONSEEKERS

-NOVEL-

CHAPTER1
Eiji:Wolf of ninth avenue

Chap.1-11

この声、ルガモンなんだろ? できたら説明……ご説明ねがえないでしょうか」
 エイジはなぜだか敬語になってたずねた。
「説明……? なんのだ」
「一から十まで理解不能です」

 ここは、どこだ。
 なんで、デジモンがしゃべっている。
 エイジは、どうなってしまったのだ。

 自宅のロフトにいたはずなのに……!
「ナガスミ・エイジ……おまえ、リューセンジの説明を聞いていなかったのか」
「え? 龍泉寺?」
 ルガモンが教授をよびすてにしたので、エイジは面食らった。
「〝マインドリンク〟の説明だよ」

 SoCへの潜入にあたって、きみのデジモンリンカーの機能を限定解除した。

 AE社とDDLの最高機密、D4の研究成果。
 クラッカーとしてのスキルを一気にアップする方法だともいっていた。
「ええと……超一流のクラッカーになれる機能……だよね」
「やれやれ」
「だって教授の説明、ときどき、むずかしくてさぁ」
 テキトーに相槌を打っていたのがバレてしまって、エイジはちょっと気まずい。
 ルガモンが歩きだす。
あ、そこ、割れたガラスがあるから気をつけ……」
 いいかけたエイジは、気づいた。
 ビルの窓ガラスに、ゆらめく炎に照らされたデジモンの姿が映っていた。
 ルガモンだ。
「…………」窓ガラスに映っているのは、いくら目をこらしてもルガモンだけだ。「おれが……いない?」
 これは……。
 エイジは、ルガモンが見ている世界を見ている……?

 ダッ

チューモン

 そこに、もうひとりのネズミがかけよってきた。
「ダンナ! おみそれしました、まさか九狼城の親分さんとは……! 手前はチューモン、つまらねぇネズミのデジモンです!」
 なりゆきでたすけられたチューモンがあいさつをした。
「…………」
「失礼ですが、どこぞにおでかけだったんで……? ここのところ親分さんの名前を、とんと聞かなかったものですから。うわさじゃ、暗殺者にデジタマにかえされたとか、人間に捕まったとか……」
 チューモンがさぐりを入れてきた。
「だれにことわって、おれに話しかけてんだ」
 ルガモンはうなった。
「チュー! すいません!」
「おれをタマにかえす暗殺者や、首輪をつけられる人間がいるとでも……?」
「し、し、し、失礼しましたー!」
 チューモンはビビりまくっている。
 ルガモンは息をつくと、すっと頭をあげた。
「そう、思いだしてきた……“ダストキングダム”おまえらチューモンは5番街のゴミための支配者・スカモン大王の手下だったな」
「へい!」
「これからは、おれが目をかけてやる。おまえは、さっきのぬいぐるみとちがってうまそうだしな」
 ルガモンはチューモンを鼻先でかいで、ぺろっとなめた。
(うげっ)
 そのネズミの臭いと舌ざわりが、なぜかエイジにもわかったので、ショックで混乱する。
「ひぃいいいい! このチューモン、お役に立ちます!」

「〝九狼城の魔狼〟……か」

 なつかしいひびきだ。ルガモンがつぶやいた。
おい、チューモン」
「へい!」
「おれは……人間に捕まったことになっているのか?」
「うわさです! 親分がいなくなった9番街は、いまじゃすっかり不景気……さびれちまって」
「留守のあいだに、ウォールスラムもずいぶんかわったらしいな……こづかいだ、とっとけ」
 ルガモンはエサを投げた。
「これは……リアルワールド製のエサ肉! さすが親分さん、いいもの食ってる~! それじゃ!」
エサ肉とチーズをかきあつめると、チューモンは、もう二度と会いたくないといった感じで逃げていった。

「あの……お話、おわりました?」
 エイジはおそるおそるルガモンに話しかけた。
 ルガモンは、なぜか、ため息をついた。
「説明、だったか」
「ぜひ!」
「こういうとき人間は、なんていうんだったか……『百聞は一見にしかず』? 『論より証拠』?」
「え……うぉっ!」
 いきなりだった。
 ルガモンが割れた窓から身を投げた。
 エイジにとってははじめての、自由落下の体感。
 3~4階くらいの高さからなんなく着地すると、ふりあおぐ。
 そこは、ビルの谷間だ。
 暗い摩天楼きらびやかさとは無縁の、ひとけのない夜明けまえの副都心あたりを思わせた。窓ガラスには、まったく明かりがついていない。
 あたりでいちばんたかいビルにとりつくと、ルガモンは駆けあがった。
 垂直の壁を。
 ツメをくいこませて疾走する。

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 肌に風をうけて。
 ルガモンの目を、耳を、鼻を、舌を、肌を、すべての五感をエイジも共有し、感じていた。
「そうか……龍泉寺教授の研究成果! これがD4の最高機密テクノロジー!」
 現実世界リアルワールドとは、なりたちがことなるデジタルワールドを、人間が直接、知覚することはできない。
 たとえば計器とソナーをたよりにする潜水艦、宇宙空間を旅する探査機のように。観測されたデータによって、間接的にしか、まわりの状況を認識できないのだ。

 なんとかして人間の五感でデジタルワールドにふれることはできないか……?

 その可能性を探究した末、デジタル生命体であるデジモンの〝デジコア〟とよばれる部位に人間の〝精神データ〟を転送、〝意識〟を設定することで、かぎりなく実感にちかい知覚をえられるとわかった。
「マインドリンクは人間の精神をデジタルデータ化、おれたちデジモンのデジコア領域に、その人間の意識を転送するテクノロジーだ」
 話しながら、ルガモンは息ひとつきらさず高層ビルを駆けあがった。
 デジコアは、デジモンの核となるデータ領域だ。
 生命としての核であり、そのデジモンが、その個体であることをしめす領域――自我、いわばデジモンの魂。
「うん! 教授、そんなこといってた!」
 腑に落ちてしまえば、とまどいよりも興味がまさった。
 ちいさなモノクロ液晶画面じゃない。
 デジタルワールドのありさま、デジモンのありさまを、この目で、じかに見る。仮想モニタと観測データではない、人間の五感で直接デジタルワールドを、とらえる。
 龍泉寺は、その技術を、すでに完成させていたのだ。

 これが答えだ。〝マインドリンク〟

「おれ、デジモンになってるみたいだ! マインドリンク……これが超一流が見ている世界なのか!」
 エイジは興奮した。
「はじめてのマインドリンクだ。おまえが混乱したのは仕方がない。そのうちなれる」
「うん、なれてきた! でも、いつ、おれの精神データとかデジタルデータ化したんだろう?」
「デジモンリンカーで、おまえの生体情報、脳波、意識レベルを24時間サンプリングしていた」
「マジで! おれの個人情報ダダ漏れじゃん!」
「なにをいまさら……そのためのデジモンリンカーだ。なにしろ人間の精神をデジタルデータ化しようとすれば膨大なデータ量になる」
「龍泉寺教授、すげー……すごすぎる」
「…………。あと、質問は? デジコアのなかで、いちいちぎゃーぎゃーさわがれるのはウゼェ」
「おれ、なんで話せるんだ? デジモンと!」
「ばかばかしい質問だ。おれたちデジモンは生きているからだ。これまでも、これからもずっと」

 デジモンは生きている。

 ルガモンもティラノモンも、ほかのデジモンたちも。
「そっか……デジモンは、ずっと、おれに話しかけていたんだな……」
「おまえがおれたちデジモンに、ちょっとばかりちかづいてきたってだけだろ」
 高層ビルをかけあがったルガモンは、ついに屋上に立った。

 そこにあった景色は

キャラクターデザイン・挿絵イラストレーター:malo

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